「…ローザの想い、気付いてるんだろう?」 ふと視線を落とした先、彼女の姿を見止め。 気が付いたら、そんな言葉を口にしていた。 言った瞬間、しまったと思うも。 今更、無かったコトには出来ない。 「そういう意味で、僕には好きな人がいるから。応えられないよ。」 どうしたモノか、考えていると。 セシルが、そう返してきた。 「そうなのか?」 まさか、その様なコトを返されるとは思ってもみなかった為。 衝撃を受けた。 寝耳に水、とはこういうコトを言うのか。 少なからずセシルも、ローザのコトを想っているモノだと、俺はずっと思っていた。 「まあ、ね。」 「…打ち明けないのか?」 「まさかそんな、今までもコレからも、しないよ。…報われない想いだから。」 哀しみと、寂しさを織り交ぜた様な。そんな声音で、セシルは呟いた。 その姿を見つめながら、相手は一体どんな人物なのかと考える。 国王の息子で(義理だが)、赤い翼の隊長。 見た目や、頭だって悪くない。 性格も、まあ後ろ向きな所はあるが。 それを差し引いても、マイナスよりプラスだろう。 大概の相手なら、落ちないなんてコトは無いと思うが。 ここまで言うと、身内贔屓が過ぎると思われるかもしれないけれど。 でも、正直、そう思っているのだから仕方が無い。 そんなセシルが悩み、報われない想い等というのだ。 何か訳ありとか、そういうコトなのだろうか。 訳あり、か…。 「…その相手って、まさか。…人妻か?」 訳ありで、真っ先に浮かんだのは既婚者だ。 確かにそれは、報われない想いだろうが。 さすがに、不倫はな。 そう思い、セシルを見遣れば目を見開き、絶句していた。 反応からして、どうやら違うらしい。 「なっ?! 全然違うよッ!!」 そして我に返ったのか、勢いよく、否定の言葉を紡いだ。 「悪い、冗談だ。」 「全く、君も人が悪いよ、カイン。」 そうだな、さすがに不倫とか有り得ないな。 平和主義で、人のモノを奪う、とか。そういう趣味は無いし。 「僕なんかよりカイン、君の方こそどうなんだい。」 「ん?」 「ローザを想っているんだろう?」 「…。」 しまった、矛先が此方に向いた。 先程の、俺に対する意趣返しだろうか。 …そんな訳、無いか。 それにしても、どう答えたら良いのか悩む。 顔や態度に出ていないと思っていたが、やはりというべきか。 幼馴染で、親友なだけあり。気が付かれていたのだな。 「毎日、愛を囁き続けてみれば? 想われて嫌な気のする人は、いないと思うし。」 愛を囁き続ける? 俺が? ローザに? 「…ゴメン、君はそんなキャラじゃなかったね。今のは、忘れて。」 「オイ。」 「ゴメンゴメン。」 確かに、そんな自分は想像出来ないし。 鳥肌が立つ。 だがしかし、今は自分のコトよりも、先程の発言の方が気に掛る。 「いつからなんだ?」 「え?」 答えが返ってくるか解らないが、尋ねてみる。 「…気付いたのは、二・三年前くらいかな。」 暫く逡巡し、ぽつりと呟きが返された。 「例えば、ずっと長い間、友人や知り合いの期間が続いていたら。 それが長ければ長い程、言い出し難いだろう?」 その後の関係は、今まで培ってきたモノ、全て失ってしまうかもしれない。 踏み出すには、リスクが多過ぎるのであれば。 壊さずに、現状維持を選ぶ。 それは何となく、解る様な気がした。 「そうか。」 「ねえ、カイン。…もしも、僕が―――。」 ふいに、真剣で、何処か思い詰めた様なセシル声に。 訳も無く、動揺した。 その理由が何なのか、解らなかったが。 「セシル様!!」 張りつめた空気を壊したのは、第三者の声だった。 僅かに、身体がビクリと疎んだ。 「…ゴメン、カイン。仕事だ。じゃあ僕は行くよ。」 「あ、ああ…。」 足早に部下の元へ向かい、そのまま遠ざかって行くセシルの後ろ姿を無言で見送る。 バルコニーに、一人残された俺は。 セシルの言葉が、頭から離れなかった。 『もしも、僕が―――。』 最後まで紡がれるコトなく、途切れてしまった言葉。 後に続くのは、一体何だろうか。 『ローザを想っているんだろう?』 確かに、好きか嫌いかと問われれば好きだろう。 けれどローザの想い人はセシルで、そのセシルもまたローザのコトを少なからず想っているのだと思っていた。 だから何処か、諦観めいた想いだった様な気がする。 しかし今日、セシルの口からローザではなく、別に想う相手がいるのだと告げられた。 あの言葉は、驚いた。 ならば自分にも、チャンスがあるかもしれない。 そう思うのが、普通なのだろうけれど。 全く過りもしなかった。 寧ろ、寧ろ俺は―――。 今まで知らなかったし、どうして話してくれなかったのだろうかと思った。 セシルの全てを知りたい、とか。 どんな些細なコトでも話し共有して、解り合える関係になりたい。 なんて風には、思いはしないけれど。 でも、寂しいと思った。 俺たちは、幼馴染で親友で。 ずっと、俺はセシルにとって特別な存在だと思っていた。 けれど俺は、セシルが想いを寄せている相手のコトなど、知りもしなかった。 唯、それだけのコトなのに。 それが、酷く寂しい、ショックだなんて。 何故だろう、独り善がりの思いだったと思わされたからか? 違う、そうじゃない。決して、独り善がりなんかじゃない。 それだけは、断言出来る。 もっと他の、重大な何かを、見落としている気がする。 ―――長い間、友人の期間が続いていたら。 ―――それが長ければ長い程。 セシルは、例えばと言っていたけれど。 俺の知る限り、セシルが友人だと思っている人間なんて。 この国に、何人存在する? そもそも俺とローザ以外に、セシルが心を許している人間など存在するのか? アレは、何だ。どういう意味なんだ? 訳ありで、報われない想い。 つまり、それらが指し示すモノは…? 「…。」 導き出された答えに、まさかと思う。 けれど同時に、一番納得が出来るモノでもあった。 俺は、どうすべきなのだろうか。 否、違うな。 俺は、どうしたいんだ? このまま、気付かなかった振りをするコトも出来る。 きっと、そうするコトがお互いにとって、一番良い方法なのかもしれない。 けれど俺が、本当に望んでいるのは別にある。 見て見ぬ振り、考えない様にしていた、お前に対する俺の想い。 それら全てと、向き合う時がきたのだろう。 俺は後に続く言葉を、聞かなければいけない。聞く義務がある。 嗚呼、違う。それは詭弁だ。 俺はセシル、お前の口から、その言葉を聞きたい。 だからきっと、それが、俺の答えなのだろう。 ずっと、俺が望んでいたのは、お前と共に歩める路。 fin. |
2010.10