人生は、常に選択の繰り返し。
最終的に決めるのは、自分自身だ。だけど俺の選択は、いつも間違う。
それが、重要なコトであればある程、必ず見誤る。
薄汚れた純情 上
国信との友達付き合いは、二年生になり、同じクラスになったコトから始まった。
一年の時、同じクラスだった七原の幼馴染み兼親友の彼は。
「宜しくね。」
そう言って、ふんわりと微笑みを浮かべた。
穏やかで、柔らかな空気を纏った人間。
俺が国信に抱いた、第一印象だった。
そう感じた通り国信は、誰に対しても態度が変わるコトなく、親切で柔和。
決して怒るようなコトもしない。
自分達と同じ年齢で、ここまで出来た人間がいるのか。どのようにすれば、そんな風になれるのか。
元来、後向きで、マイナス思考の自分からすると、羨ましくもあり、ある種憧れに似た感情を持った。
自分とは、対照的な存在。その点で言えば、三村も同じだった。
国信も三村も、俺からしてみれば同じであり。しかしこの二人もまた、対照的な人間なのだ。
だからこそ、気付くべきだった。
何故そのような二人が、付き合うようになったのかを。
俺は、国信慶時という人間を、完全に誤解していた。
そもそも、三村との関係に、国信を利用しようなどと考えたコト自体が間違いだったのだ。
自分は本当に、卑しく、愚かで。
どうしようもなく、救いようの無い人間なのだと。
嫌でも思い知らされるコトになる。
***
数日前、俺は三村と国信が抱き合いキスをしている場面を目撃した。
瞬間、俺は自分の目を疑った。
けれど間違い無く、それは三村で、相手は国信だった。
まさか、二人がそういった関係にあるなんて全く知らなかった。
いつからあの二人は、そういった仲であったのだろうか?
知らなかったのは、俺だけなんだろうか?
あの二人の親友である瀬戸や七原は、このコトを知っているんだろうか?
否、どちらにせよ、確認出きるわけがない。
けれど、今までの二人の行動を思い返してみると、確かに以前より親しい雰囲気があったような気がする。
自分のコトが手一杯で、周りのコトなど目に入っていなかったのか。
別に、三村が誰と付き合おうと、俺には関係無いコトだ。
それなのに…。
以前の関係だったならば、三村は俺にその事実を話してくれていたのだろうか?
いくら考えた所で、解りはしないし、答えが出るわけでもない。
こんなの、今更考えるだけ無意味なコトだ。
頭では解っているのに、どうしても気になり離れなかった。
午後の授業を告げる予鈴が鳴り響き、各自席へと戻り授業の準備を始める。
けれど、三村と国信の姿は見当たらず。
結局、二人が五時間目の授業中に戻って来るコトはなかった。
そうして二人が、何をしているのか考える。
親しげに、いっそ睦まじいくらいの三村と国信の姿が、瞼に浮かんだ。
俺がこんなに苦悩しているというのに、何も無かったように、見せ付けるかのような三村の振る舞い。
そうして、アレから時折俺を、蔑むような目で見る三村。
沸沸と、身体の奥から込み上げてくるモノがある。
許せない。いっそ、憎らしくさえ思えた。
確かに、自分に非があったコトは認めるけれど。
蓄積された負の感情は、既に自分でもどうするコトが出来なくて。
だから、三村の大切にしているモノを奪ってやろうと、壊してやろうと思った。
そうして、三村も俺と同じように苦悩すれば良い。
俺が、あの日からずっと、どんな気持ちでいたのかを思い知れば良い。
そうだ。不毛な想いで、修復出来ないのならば、何もかもメチャクチャにしてしまえば良い。
自分の中で、何かが音を立てて崩れた。
やり場の無い、行き場の無い想い。
それらが歪んだ醜い感情へと変化した瞬間だった。
***
そうして今日、俺は国信が一人になるタイミングを朝から覗っていた。
けれど平日の校内で、授業があり、それが終れば部活がある。
このような空間で、一人きりになる確率など、相当低い。
例え運良くなれたとしても、第三者が割り込んで来るコトだって考えられる。
そもそも、学校内で二人きりになろうと考えたコト自体が間違いなのか。
気が付けば授業も終わり、放課後になっていた。
時が経てば経つ程、決意が揺らいでしまう。
だから早々に済ませたかった。
今日はもう諦めて帰ろうか。そんな風に思い、鞄を持ち教室を出る。
廊下を歩きながら、思わず溜息が零れる。
こんなコトをするのは止めろ。
そう警告されているのかもしれない。
(でも…。)
その矢先。
不意に見下ろした窓の先、国信の姿が目に映った。
無意識に、追い掛けていた。
国信の姿を見止めた俺は、既にそのコトで頭がいっぱいだった。
だから気付かなかった。
自分と同様に、国信も俺のコトを窓から見上げていたのを。
後を追い、辿り着いた場所は保健室だった。
そう言えば確か国信は、保健委員であったコトを思い出す。
静かに、音を立てぬよう細心の注意を払い、扉へと近付く。
そうして耳を澄ませ、中の様子を伺うと、物音一つせず、静まり返っていた。
もしや誰も居ないのではないか。と、一瞬不安になる。
しかし室内に、国信以外の人間が誰もいないのであれば、コレだけ静かであってもオカシクはない。
そう判断した俺は、意を決して、保健室の扉を開けた。
扉の先、室内は思った通り誰もいなかった。けれど、肝心の国信の姿も見当たらない。
とりあえず中へと足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉める。
普段、保険医が仕事をする為に居る、机の側まで近づくと、ふいに室内の電気が消えた。
何事かと振り返ると、目の前に探し求めていた国信が微笑みを浮かべ立っていた。
「…国の……ぶ…ッ?!」
姿を確認した瞬間、鳩尾辺りに衝撃を感じた。そして俺の意識は、ココで一端途切れた。
重力に従い、その場へ倒れ込む俺の姿を数分前、窓から見ていた時同様。
国信の表情(かお)には、酷薄な微笑みが浮かんでいた等と知る由もなかった。
それが、コレから俺自身に起こる出来事の幕開けだった―――――。
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