誰か他人を羨ましいと、思ったコトは早々にない。
思うだけ無駄、仕方無いコトだと解っているから。
けれど今、七原が羨ましいと、俺は思っている。





何がきっかけだったのか、覚えていない。
それ位、些細なコトで、七原と口論になった。
全て、相手が悪いとは思わない。俺自身にだって、非はある。
だから、冷静に、頭を冷やす為に一人、屋上へとやって来た。
誰もいない屋上に一人、先程までの出来事を思い返し、溜息が零れた。
そうして、ゴロリと仰向けに寝転がれば、視界に嫌味なくらい清々しい、青空が広がる。
何となく、ソレが気に障り目を閉じる。



七原が羨ましいと思うのは、こういう時だ。
国信にとって、七原は何よりも優先される存在。
それは以前から、解っていたコトであり、俺と国信が恋人同士になった今でも変わらない事実だ。
俺が、こんな風に一人で居たとしても、国信は俺の所には来ない。
国信の優先は、いつだって七原だ。いつでも、七原の味方で
―――
だから、今頃は七原の傍に居るに違いない。
そう考えると、面白くない。
自分が悪かっただなんて、認めたくなくなる。
いつだって、どんな時でも自分が一番でありたい。
子供染みた嫉妬、独占欲だと解っている。
頭で理解していても、感情が伴わない。
俺は、まだまだ器の小さい人間なのだと思う。
そしてまた、溜息が零れた。
同時に、顔に影が差すのを感じた。
雲でも出てきたのだろうか?

「こんな所に居たんだ。」

目を開けようとした瞬間、耳に届いた声。

「…国信。」

俺の顔を覗き込み、微笑みを浮かべた国信。
思い掛けない出来事に、目を瞠った。
そんな俺を余所に、国信は隣に腰を下ろす。

何故、どうして?
まさか国信が来てくれるだなんて、露ほど思いもしなかった。
驚きと、嬉しさ。
その二つが、入り混じったような。
けれど、もしかしたら七原の所へ行った後、俺の所へ来たのかもしれない。
そんな風に考えてしまうと、どうしても気分が上昇しなかった。
ココに来たのも、七原と仲直りしろとか。窘めに来ただけかもしれない。

「…こんな所に来て、良いのか?」

何しに来たのか、さすがにソレを訪ねるのは憚られた。
もし、俺の考えていた通りで、肯定されたら凹む。
だから遠回しに、濁す。

「どうして?」
「…どうしてって…。」
「来たら、ダメだった?」
「ダメなコトは、ないけどな…。」

そんな風に言われたら、返答に困る。
ダメな訳ではない。寧ろ、俺の所に来てくれたのは、嬉しい。
例えそれが、七原の次であろうと。
国信にとって、七原は最優先される存在。
悔しいとか、羨ましいと思うけれど。
結局、俺のコトを少しでも気に掛けて貰えたのなら、俺は嬉しいんだ。
単純なコトに。
その事実に、自嘲的な笑みが浮かぶ。

「子供の喧嘩に、親は口出ししないモノだよ。」
「…え?」

何処までも下降気味な俺の耳に、国信の言葉が届く。
どういう意味だろう?
子供の喧嘩に、親は口出ししない?
この場合、子供というのは七原のコトだろうか。そうすると、親というのは国信のコトを指す?
つまり?
七原の所ではなく、俺の所へ真っ先に来てくれたというコトなのか?

「三村は、何か勘違いしてるみたいだけど。」

心を読まれたのか?
勘繰りたくなる程に、タイミングよく続けられた言葉。
否定されたのかと、ドキリとする。

「俺は、秋也の味方だけど。でも、だからと言って、直ぐに手を差し出す。ってコトじゃないんだよ?」

そうして、俺に微笑みかけた。
今の言葉は、俺の考えは肯定されたという意味で、良いのだろうか。
ぼんやりと、国信の顔を見つめる。
見つめた所で、真意の程が解る筈もなく。
だから、都合の良いように解釈をする。
精神学的にも、その方が良い気がしたし。

「ごちゃごちゃ、考えすぎなんだよ、三村は。」

その言葉に、何が?とは聞けなかった。
思い当たる節は、多々ある。
今日の、七原とのコト。俺が国信に対して、想っているコト。
国信が言ったのは、きっとそれら全てを含んでいる気がした。
そうしてふいに、国信は身体の位置をずらし。
俺の頭を持ち上げると、その下に足を入れ、自分の足の上に俺の頭を置いた。
所謂、膝枕。という状態だ。
突然の行動に、俺は驚き、国信の顔を見上げる。
目が合うと、何も言わずに、国信は薄く微笑んだ。
瞬間、唐突に、理解した。

少し遠くで、午後の授業開始を告げる、チャイムが聞こえる。

「…授業、遅れるぞ。」
「そうだね。」

肯定しつつも、国信が動く気配はなかった。
俺も、動く気には、なれなかった。
唯、頭と身体を少しずらし、体勢をを変え。
国信の、身体の方へ頭を向け、両腕を腰へ回した。
そうすると、国信の手は、俺の頭を撫でる様に。
優しく、何度も動かされた。
その動作に、抱き締める腕に、僅かに力が篭る。



嗚呼、俺は恋をしているのだ。
唐突に、今更ながら、理解した。
コレが恋。
国信に、見返りを求めている俺は、確かに恋をしている。
この想いは、愛じゃない。





















fin.




2008.05.24