『愚民共』










少し前まで。
他人にとやかく言われるコトは、気にしないようにしていた。
でも、気にしないようにする時点で、それは気になっているというコトなのだ。
だけど今では、そんなコトは全く気にならなくなった。
俺を変えたのはアイツ。
国信だ。



結果、今では唯一国信の言葉や態度だけが、自分の心を揺さぶる存在となった。





国信と付き合うようになってから、自分は随分と変わったような気がする。
それだけ影響力の強い人間なのか。単に惚れた弱みなのか…。
否、恐らく前者だろう、アイツの場合は。
善くも悪くも周りに影響を及ぼす程の力がある人間なのだ。本来の彼は。
ただ、普段・日常生活を送る上で見えないだけ。
本質の部分は、まるっきり正反対なのだ。本来の国信慶時という人間は。



あの日、告げられた言葉。
今でも色褪せるコトなく、鮮明に覚えている。





「低俗で物事の善し悪しも解らないような奴等のコトで、愚痴愚痴悩むのは頭の悪い奴がするコトだ。」



はっきりと、そう断言した彼に驚いた。
問えば、そんなコトは当然だ。と言わんばかりの顔をされた。



「何一つ、三村のコトを解らないような奴等と、俺を一緒にするつもり?
…それって気分悪いんだけど。」



不機嫌そうに続けられた言葉に、そんなコトはないと慌てて否定の言葉を紡いだ。
慌てふためく俺の様子に、解ってるよ。
言って微笑んだ。





「だから、そんな奴等の言葉なんかじゃなくて、俺の言うコトだけ聞けば良い。」





嗚呼、そうだ。
誰に何を言われようが、思われようが、どうだって良いコトじゃないか。
何よりも、自分のコトを解ってくれてる人間(ひと)が、こうして傍に居てくれるのだから。



甘美な響きが、俺の心を掴んで離さない。












fin.





04.03.14