Foolish of yourself who judges it from externals

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国信と会話を交したのは、もうスグ夏休みを迎える頃だった。

帰宅する途中、歩いている時に視界へ飛び込んできた光景。

グラウンドの片隅、何事か揉めているらしかった。

ちょっとした好奇心に駆られれ、近付いて見れば。

それは一人の野球部員で、顧問である教師へ、今にも飛びかからん勢いで何かを言い募っていた。

さすがに声までは、よく聞き取れなかったけれど。

推測するに、意見の食い違いや、理不尽なコトでも言われたかがあったのだろう。

しかし、だからと言ってアレでは
―――

「…あんなコトして、居られなくなるぞ。」

心の内で呟いたつもりだったが、声に出ていたらしく。

至近距離から、人の気配、視線を感じた。

誰か居たのかと思い、首を巡らせると。

国信がコチラを向いて立っていた。

こんなに近くに居て、どうして気付かなかったのだろうか。

国信がココに居るというコトは、恐らくあの揉めている人物は七原秋也だろう。

嗚呼、迂闊だったと。内心、舌打ちをした。

相手が七原だと解っていたなら、こんな所で足を止めたりしなかったのに。

今更後悔しても遅く、予想外の人物と、図らずも急接近してしまい慌てた。

しかも国信は、何も言わずジッと俺の方を見たままで。余計に、居心地の悪さを感じる。

「…何だよ?」

思わず、ぶっきらぼうな、不機嫌な声が出たのが自分でも解った。

「あー…、気を悪くしたなら謝るよ。ごめん。」

気まずそうに、それでも素直に謝られてしまうと、コチラとしても些か申し訳無い。

別段、国信が悪いコトをしたわけではないのだから。

「…いや、別に、良いけどな。」

とりあえず、そう返すのが精一杯だった。

そうして再び訪れる沈黙。

どうしたものかと暫し巡回し、ココへ着た目的を思い出した。

「止めないのか?」

「え?」

「だから、アレ。止めないのか?」

視線をグラウンドの方へと向ければ。

未だ揉めている二人の姿が、変わらずそこにあった。

「…ああ。」

問うた意味を理解したのか、それでも返されたのは、なんとも曖昧な返事だった。

「仲良いんだろ、アイツと。あのまま放っておいたら、退部させられるんじゃないか?」

国信と七原は、親友同士なのだと。以前、豊が話していた。

「…そう、だね。でも俺は、止めない。止められないだろ?」

少し以外な言葉を返され、再び国信へと視線を戻す。

「このままだったら、秋也は確実に辞めさせられるだろうけど。俺には、止められない。」

「…でも、親友なんだろ?」

「うん、だから余計、止められないんだよ。」

どういう意味だ?

少し首を傾げ、言われた意味を考える。

すると国信は、俺の方へと一度向き直った。そして苦笑を浮べ、再び視線を七原達の方へと戻した。

「今ココで止めたら、この場は収まるかもしれないけど。必ずしこりが残るだろう?

 仮に退部させられなくとも、あの教師のコトだから。秋也はレギュラーになれないよ、どんなに上手くたって。」

顧問に口答えした、とか下らない理由でさ。

吐き捨てるように付け足し、侮蔑するような視線を顧問である教師へと国信は向けた。

確かに、国信の言う通りかもしれないと。俺も二人の方へと、再び目を遣る。

「今、秋也がしてる行為は、結局自身の為にはよくないコト以外の何物でもないけど。

 そんなコト、秋也は考えてないし。どうでも良いんだよ。

 結果の為に、損得で動いてない。違うモノは違うって。黙ってはいられない。見て見ぬ振りは出来ない。

 それが秋也の中の、正義だから。正しいコトを言えば、正しいわけじゃないし。

 間違っているコトでも、上に立つ人間が良しとしたら、それが正しいコトになる。

 正直者が馬鹿を見る…、じゃないけど。でも、世の中なんて、所詮そんなモノだし。

 でも、そういうの貴重だろう? ある程度、妥協するコトだって必要かもしれない。

 だからこそ、自分の信念を曲げずに、己を貫き通すっていうのは、とても難しいコトで。

 そんな生き方するのは、不器用だって思われるかもしれない。

 けど、今俺が止めに入ったら。俺は秋也を踏み躙るコトになる。秋也自身を否定するコトになる。

 だから、止めない。俺には止められないんだよ。」

一息にそう言い、ふうっと小さく溜息を零す。

「辞めさせれるコトに比べれば、なんて思われるコトかもしれないけど。

 そういうモノを踏み躙る方が、ずっと重いと、いけないコトだと俺は思うし。

 もしココで、退部させられても。俺は秋也の肩持つよ。どんなに回りが違うって、否定したとしても。

 俺は、絶対に、秋也の肩を持つし、何があっても、味方でいるよ。」

そう言って目を細めた。

柔らかく、優しげな表情は。慈しみとか、親愛の情とか。

嘘も偽りも無い、心の底から思っているのだというのが解った。

国信自身が口にした、

『何があっても味方でいる。』

この内容だって、その方が余計に難しく大変なコトの筈だと俺は思う。

それなのに、事も無げに、国信はハッキリと、一点の淀みもなく言い切った。

彼に、ここまで言わせる七原秋也という人間にも興味を覚えたけれど。

何よりも、国信慶時という人間が。

俺の存在を認識し、七原についてだったけれど会話を交した。

少なくとも、この瞬間(とき)に。

俺が国信に対して抱いていた、人間性やら不満やら。ごちゃごちゃ考え、思っていたコト全て吹き飛び。

唯、喜びにも似た感情が、ざわざわと、波紋を広げるように。

俺の心を満たしていった。






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(2006.5.1)