Smile of you who has not thought
that it is because it is hypocrite of it

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校門から昇降口までには、様々な種類の木が植えられている。

今の時期、特に目を惹く花は桜だろう。

いつ頃からなのかは解らないが。

この辺りにある学校では、卒業生が苗木を寄贈し植樹するのが習わしとなっている。

現に桜の木がある傍には、何年度寄贈か解るようプレートがある。

勿論、そういったモノが無い桜の木も存在するが。

二十本くらいはあるのだろうか?

数えたわけではないから、正確な本数は解らないけれど。

兎に角、そういった経緯もあり桜の木が多い。



退屈な入学式を終え、帰宅の途に着く道すがら、満開の桜を眺めながら歩く。

風が吹き、木々は揺れ、花弁がひらひらと舞う。

その中を時折、友人達と談笑しながら歩く生徒の声が耳に届く。

何とはなしに、振り返った視線の先、そいつは居た。

特別、目立つ容姿をしていたわけでもなかったけれど。

さらさらと、音が聞こえそうな黒髪が風に靡く。

それに相対するような、色の白い肌。

身長はそれなりにあるのだが、細い所為か小柄に見えた。

けれど、真っ直ぐに伸びた姿勢が、綺麗だと思った。

そいつは足を止めて、桜の枝へと手を伸ばし。

すると風で舞った花弁が、吸い込まれるように掌へと収まる。

その様子に、目を細め微笑んだ。

酷く、鮮烈で、印象的な光景に。思わず息を飲み込めば。

タイミング良く、一際強い風がザァーッと吹き。大量の花弁が空に舞う。

思わず手を翳し、目を覆った。

風が止み、ゆっくりと目を開けば。こちらへ歩みを進めてくるそいつの姿が映る。

擦れ違い様、耳に光る紅いピアスが目を惹いた。

それが、出会いだった。





















新しい生活にも慣れはじめてきた頃。

豊と話しをしている、そいつの姿を見掛けた。

時折笑いながら、親しげに会話を交す様子に。

はて、同じクラスではなかったし。一体何処で知り合い、親しくなったのだろうかと。

思わず首を捻る。

尤も、誰とでもスグに仲良くなれる豊の性格を考えれば、然して不思議なコトでもないのだけれど。

暫くそんな二人の様子を眺めていると。

話し終えたのか、背を向け歩き始めたそいつを見送り。豊に近付く。

「今の奴、知り合いか?」

「うわっ! 吃驚した、シンジか。脅かさないでよ。」

「悪い。」

「今のって、ノブさんのコト?」

「あー…、名前知らないけど、多分そうだろ。」

「ノブさんは、国信慶時って名前で。同じ委員会なんだよ。」

「へえ…。」

「それがどうかした?」

「否、別に。」

国信、慶時…か。

心の中で、知ったばかりの名前を呟き。

たった今、消えて行った国信の姿をぼんやり思い返した。





名前を知ってから、アイツの姿がよく目に留るようになった。

その度に国信は、笑みを浮かべている。

聞けば、いつも笑顔を絶やさぬ人物らしく。

穏やかというか、人がいいというか。温和なんて言葉が、似合う奴だと思う。

声を荒げたり、自分の感情を表立たせるコトをしない人間。

彼の人となりを聞きながら、ちょっと偽善者なんじゃないかと思った。

そんな出来た人間が、果たして本当に存在するんだろうかと。

恐らく俺なんかとは、正反対の人間だ。

仮に同じクラスになったとしても、友人付き合いなんかするコトもないだろう。

特別、印象が悪いわけではないけれど、良いとも言い難いのが事実だった。

人間には、相性というモノがある。

俺達は、ソレが合わないと。話しもしたコトが無いのに、勝手に俺は思った。

けれど同時に、こうしてアイツのコトを無意識に考えてしまうのは。

桜の木の下で出会ったコトも。

アイツが耳にピアスを付けているコトも。

俺は知っている。

俺が知っているにも関わらず、アイツは俺のコトなんか知らない。

偶然、擦れ違った廊下で、だけどアイツの目に俺の姿は映っていないんだ。

その事実が、何故だか無性に気に食わない。

どうしてだろう。

不相応な、あのピアスの所為。

偽善者ではないかと、疑ってしまいたくなる笑顔の所為。

俺ばかりが気にして、意識していて、バカみたいじゃないか。

それが嫌なんだ、気に入らないだけなんだ。なんて。

言い訳がましく、悪いのは全部、アイツの方なのだと自分を正当化し、言い聞かせ。

こんなにも、国信のコトを気にしている自分を。

だけど必死に誤魔化し、目を瞑り、耳を塞ぎ、気付かぬ振りをした。






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(2006.4.30)