I imprudently felt myself to whom the mind bounced.

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三村信史という彼の名前は、予想通りスグに知るコトが出来た。

大体彼は、瀬戸の親友なのだから余計に。

同じ委員会で知り合った瀬戸とは、言われてみるとよく一緒にいる姿を目にしたような気もする。

会話の中にも、彼の名前が出たコトもあった。

けれど直接関わりがあったわけではないし、そうなってしまえば解らない。

相変わらず俺は、他人には興味がないのだなと思い苦笑した。

そうして、秋也の一件で知り合った三村は。

夏休みに入ってから、毎日のように慈恵館へとやって来る。

それまで、俺も秋也も、三村と親しい間柄にあったわけではなかった。

にも関わらず、こうして連日姿を現すというのは。

あの日のコトが、秋也が気になるのだろう。

俺達の予想通り、秋也は野球部を辞めさせられた。

熱中していたモノを、理不尽な理由で奪われた秋也は魂が抜けたようになってしまった。

いつもぼんやりと上の空で、何事かを考え込んでいるようだ。

きっと、割り切ろうと、納得しようと葛藤しているのだと思う。

そんな秋也に、俺が今出来るコトなど何も無い。

精々、いつも通りに接するだとか、見守るコトしか出来ない。

このような状態にある現状を考えた時。

毎日やって来る三村を気に掛ける方が、今、俺の優先すべきコトかもしれない。

態々足を運んで着ているのに、放置しておくわけにもいかないだろうから。

一日の大半と言っても過言ではない時間を、ココで過ごして居る三村は。

唯、何もせずに時間を潰すのは勿体無いと思う。

話しの流れで、夏休みに出された宿題は全て終らせたと口にしたら。

次の日から、終っていない宿題を持参してくるようになった。

素直というのか、なんだか可愛いなあ。なんて思い、笑みが零れた。

「あー…、感想文とか面倒だな。」

「それは本を読むのが? 感想を書くのが?」

「両方に決まってンだろー。大体な、感想も書く用紙枚数が決まってる所とか嫌になる。」

「5枚以上だったよね。」

「そんなに書けるかっての…。」

暑いし、ダルイしやってられない。そう続け、机の上に突っ伏す。

三村の様に、思わず苦笑が零れる。

アレから、話しをするようになり気付いたのは。

彼は頭が良いというコトだった。頭の回転が速いのだろう、話しをするのも、聞くのも上手い。

要領も良いし、成績だって悪いわけではない。

悪いわけではないのに、国語と社会が嫌いらしく。この教科は、その言葉から解る通りの成績だった。

社会なんて、殆ど暗記科目だし。国語とて問題を解くコツや法則さえ解れば、なんてコトもない教科だ。

後ほんの少しだけでも、本人がやる気を出せば、元々頭が良いのだから。

そこまで毛嫌いする程では無くなるだろうに。勿体無いなあと思った。

こんな風に、三村と共に他愛の無い話しを交わしながら送る日々は。

想像していた以上に、楽しかった。

秋也の状況を考えたら、不謹慎だと心の中では思いつつも。

それでも訪ねてくる三村を、心待ちに、楽しみにしている気持ちが俺の中に確かに存在していた。

最近まで、名前も知らないような相手だったのに。この変わりようは何々だろうと、我ながら可笑しかった。

それに恐らく、秋也の一件が無ければ。

俺は三村の存在を、今でも知るコトは無かっただろうし。











慈恵館に、三村が来るようになってから暫く。

何故そんなに冷静でいられるのか。何故黙って見てるだけなのかと。

洗濯物を干してる最中、唐突に訪ねられた問い掛けに。

尤な質問内容に、ちらりと視線だけを三村の方へと向ければ。

何とも形容し難い表情を浮かべていた。

その表情は、始めて見るモノで。一瞬、どうしたのだろうかと疑問に思い。次第にソレは、変化を見せた。

瞳が薄っすらと翳り、昏い色を映す。

同時に、左耳のピアスへ三村の手が触れた。

瞬間、思わず息を飲んだ。動揺し、思わず手にしていたシーツを落しそうになった。

その表情は、その瞳を、その昏い色を俺は知っている。

同じだと思った。

彼もまた、何か大切なモノを失くした。

諦めて生きるという行為を、知っている人間だと直感した。

三村の姿を見詰めながら、徐に自分の耳にあるピアスへと触れてみる。

コレは中学入学前に、なんとなく付けたモノであったけれど。

父を亡くし、母を失くし。自分の存在意義を、価値を無くし。

このピアスは、ある種の戒めだった。

忘れない為の。

驕らない為の。

身の程を弁える為の。

そうやって、残りの命を、人生を全うしなければいけないのだと。

何かを望んではいけない、欲してはいけない。

何遍も何遍も、繰り返し自分に言い聞かせてきた。

それなのに。

こんなにも、こんなにも脆く、容易く打ち崩されて行く。

あんな瞳をするから、あんな昏さを浮かべるから。

俺の中にある、欠落した部分を埋められるのは彼だ。

俺と同じモノを持っている、知っている。三村以外に存在し得ないと思った。

思ってしまった。

その事実は、心の奥底でずっと待ち望んでいた、嬉しい喜ばしいコト。

だけど、同時に。

何故、彼なのだろうと落胆し。

絶望のような、真っ暗な闇の中へと、突き落とされ。酷く心を締め付けた。

涙が零れそうなのに、笑みが浮かぶ自分を感じた。

そんな自分を気付かれないよう、悟られないよう。

バサリと、大袈裟な音をたて、手にしていたシーツを翻した。






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(2006.10.2)