Moment when interest was remembered

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人の目を惹く容姿をしているにも関わらず、彼と初めて会ったのがいつだったかは正直覚えていない。

基本的に俺は、他人に興味が無いから、余程のコトでもない限り印象に残らない。

俺が三村信司という存在を認識し、初めて話しをしたのは偶然というべきか。

それは、夏休みが間近に迫った頃だった。

秋也が所属している野球部で、ちょっとした事件が起きた。

秋也は正義感が強く、カッとなる所がある。

でもそれは、自分の為とかではなく。どちらかといえば、回りに対してのコトだ。

理不尽なコトで怒られたり、危害を加えられた時などにそういう状態になる。

遠目からで、話し声もよく聞こえなかったから。事の詳細は、俺には解らない。

けれど、秋也の言っているコトは間違いではないのだろう。

間違いではないから、イコール正しいかと問われれば、それはまた異なる。

世の中、正論を言えば良いというモノではないし。

ましてや顧問である、あの教師には通じる筈もない。

恐らく秋也は、野球部にいられなくなる。

権力という武器を振りかざし、自分の意向に楯突く人間は切り捨てる。

例えそれが、どんなに才能ある人物であろうとも。

なんて大人気無い教師なのだろうか。と思うと同時に。それが大人という生き物か、とも思う。

悪いコトは悪い、善いコトは善い。

相手が誰で、どんな人であろうとも秋也はハッキリと物事を口にするのだ。

自分自身に、不利益な結果になろうとも。

それが短所であると同時に、長所でもある。秋也の良い所なのだ。

「…あんなコトして、居られなくなるぞ。」

ぼんやり眺めていると、ふいに隣から声が聞こえた。

同じようなコトを思い、口にするこの人物は一体誰だろう?

そう思い、隣を振り返る。

立っていたのは、見ず知らずの人間だった。

橙がかった明るく短い髪を、立てるように後ろに流し。

左耳に付けられたピアスが印象的だった。

随分と目立ち、本人の意思関係無く、嫌でも人目を惹く容姿。

しかし誰だろうか?

残念ながら俺は、隣に立つ人物が何処の誰なのか、皆目検討がつかない。

考え込むように、思わずジッと凝視した。

そんな俺の視線に気付いたらしく、彼は此方を振り返った。

「…何だよ?」

眉を顰め、不機嫌そうな声が耳に届き、彼の言葉にハッと我に返る。

「あー…、気を悪くしたなら謝るよ。ごめん。」

誰とも解らない相手に、じろじろと見られたら誰だって気分の良いものではないだろう。

そう思い、素直に謝罪の言葉を口にした。

「…いや、別に、良いけどな。」

俺の言葉に彼は、一瞬目を見張り、気まずそうに視線を逸らした。

そうしてお互い黙り込む。

まあ、話しをするコトも無いのだから、当然と言えば当然かもしれないが。

加えて俺は、彼が誰なのか知らないのだ。

「止めないのか?」

「え?」

どうしたモノかと考えていると、沈黙を破ったのは彼の方だった。

「だから、アレ。止めないのか?」

視線を、グラウンドの方へ向けた彼のソレを追うように、視線を巡らせば。

そこには、相変わらず揉めている野球部員。秋也と顧問の姿があった。

「…ああ。」

質問された意味を解し、曖昧に返事をする。

「仲良いんだろ、アイツと。あのまま放っておいたら、退部させられるんじゃないか?」

「…そう、だね。でも俺は、止めない。止められないだろ?」



親友なにの、何故止めないのか。そう問われた。

確かに、彼が言いたいコトは解る。

考え様によっては、薄情者と思われる俺の行動は。

それでも俺に、秋也を止める権利はない。

どんなに親しかろうが。否、親しいからこそ、俺には秋也を止められない。

止めてはいけないのだ。

秋也の誇りと正義を、踏み躙るコトは出来ない。

問いに答えながら、ふと。

一体どうして彼は、俺と秋也が親しいというコトを知っているのだろうか?

素朴な疑問が、頭を過った。

自分で言うのも何だが、俺は特別目立つような存在でもないだろうし。

そこまで思い、ならば秋也のコトを知っているのだろうか?

だとすれば、成る程。合点がいく。

しかし、だからと言って俺は何故、名前も知らない相手に、こんなコトまで話しているのだろうか。

一瞬、思ったけれど。

今更口を噤むのも不自然だし。まあ良いかと、続けた。

名前も知らない相手だけれど。

それでも、俺が考えていたのと同じコトを思った彼に。

少なからず興味を覚えた。

コレだけ目を惹く容姿をしているのだから、恐らく有名人だろう。

スグに名前も解る筈。

話しをしながら、頭の片隅でそんなコトを考えていた。






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(2006.5.1)