【INSOMNIA】 (太公望)
貴方の居ない、ひとりの夜。
寝台の上、ひとり膝を抱えて丸くなる。
ひとりの夜は、眠れない。 昔から、そうだった。 否 そうじゃない。
『自分一人だけが生き残った、あの日から始まった。』
夜、寝台に入り目を瞑る。 そうして夢に出てくる、死んで逝った一族の者達。 どんなに身体が、心が疲れていても、深い眠りに就けなくなった。 同時に、眠ることが恐くなった。 安らぎなど、何処にもありはしない。 あるのは
『何も出来ない、無力な自分』
と
『終わりの無い、現実世界』
ただ、それだけ。
真っ暗で、光の無い世界を一人生きてきた。 けれど そんな自分に、手を伸ばし、光を差して、居場所をくれた者がいた。 決して
自分は幸せなど、安らぎなど得てはいけない筈なのに。
それなのに 優しく微笑んで、抱き締めて、温もりを。 ただ静かに傍にいて、与えてくれた。
それは
ずっと昔に捨てた 忘れ去っていたモノ
いつの間にか、あの夢は見なくなっていた。
そして、悪夢に魘され目が覚めることもなくなった。 朝まで穏やかに、眠れるようになっていた。
あやつのお蔭で。
けれど
『あやつは、今ここには居ない。』
自分の命により、彼の地ヘと 要塞建設の為、赴いている。
あやつが傍に居ない。 ただ、それだけのこと。 それなのに
眠れない。
ただ、昔に戻っただけなのに。
もう一度 手にしてしまった温もりは、安らぎは。 とても心地良く、気持ちが良くて。 再び手放すことなど、もう自分には出来なくて。
いつから、こんな風になってしまったのだろう。 いつから、こんなに自分は弱くなってしまったのだろう。
こんな自分はいらない、必要ないのに。
戦乱の渦の中心に、自分は居て こんな感情を、抱いてはいけない筈なのに。
解っているのに
それでも、捨てることなど、もう出来るわけが無くて。
「・・・楊ゼン」
ポツリと、この地に居ない、彼の人の名前を呟く。
自分の膝に顔を埋め ぎゅっと膝を抱え
眠れぬ夜を、今日もまた。
ひとり、朝が訪れるのを待つ。
fin.
一番、不眠症なイメージがあるのは、師叔です。 03.02.09
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