優しさというモノも、度が過ぎれば、傲慢とか偽善に思えるし。
周りには、そう取られるコトもある。
何かしらの見返りを求めて、損得を考えて、そういう態度を取る者も中には居る。
けれど、サンジ本人は、見返りを求めている訳ではない。
無意識で、普通に行動している。
だからサンジのソレは、嘘偽り等なく、本物なのだろう。
そしてソレは、他人ばかりへと向けられる。
ほんの僅かでも、自分自身に向けても良いのではないか。
ゾロは、そんな風に思っている。
『飢えてるヤツがいれば、敵・味方関係無く食わせてやる。』
コレが、サンジの信条である。
だから仮に、残された食料が少なかったり、殆ど無かったとしたら。
己の分を減らすなり、抜くなりするコトを厭わないだろうし。
躊躇いなく、やってのけるだろう。
周りに気取らせない様、平然とした顔で。
そうするコトが、間違いだと。いけないコトだと、ゾロには言えない。
サンジ自身が思い、行動しているのであれば。
とやかく口出ししても、無駄なコトだろうとも思っている。
こういった時に、現状を素直に口にするなり。
何らかのアクションを、サンジの方から寄こしたのであれば。
また違うであろうが。
恐らく、そんなコトはしないだろう。
配分計算を誤ったとか。食糧管理が、甘かっただとか。
そんな風にして、自身を責め落ち込むのだ。
コックとしての、プライドもあるのだろうが。
凡そは、人柄だろう。
責任感の強さが己を叱咤し、優しさが仲間ではなく己を叱責する。
コックとしての本領を、十二分に発揮している。
損な性分だと思う。
優しい人間というのは、唯ソレだけで損をしているというけれど。
サンジを見ていると、事実なのだと思えてしまう。
でも、本人がそうは思っていないのだから。
コレもまた、周りがとやかく言う筋合いはないのだ。
サンジの優しさは、いっそその域を超えているのではないかとも思う。
それはまるで、自己犠牲。
自己犠牲の上に在る、優しさ。
この自己犠牲的精神は、仲間の命を救う為ならば、どんなコトでもしそうだ。
例えば、命の遣り取りをする様な、危機的状況下で。
『お前の命を差し出せば、仲間の命は助けてやる。』
等と、瀕死の仲間を前にした云われた時。
ヤツは、差し出しそうだ。
飢えを満たし、命を生き長らえさす筈のコックが、そんなコトをしてどうするのか。
否、生き長らえさす為の行動だとするならば、道理に適っているのか…?
いや、いやいやいや。違うだろう。
仮にそうしたとしても、一時のモノに過ぎないし。
生き長らえたとして、その後はどうなる。
代わりなりを探す間、飢えを満たしてくれる人間は何処にもいない。
その辺のコトを、ヤツはもっと自覚するべきだ。
大体、この船にはコックとして誘われたのだ。
だったら、あの船長。
ルフィがヤツ以外のコックで、満足する訳がない。
メリー号の乗組員は少ない。
その中で、戦闘員は、更に少ない。
戦闘になれば、必然的にヤツも駆り出されるのは致し方ない。
まあ、簡単にくたばる程、弱い訳でもないし。
認めている。
背中を預けても良いと思えるくらいには、信頼もしている。
何てコトを言ったら、調子に乗りそうだから。
絶対、口になんかしてやらないけど。
それでも、例えどんなに強かろうと、本業はコックなのだ。
その辺りを、本当にもう少し自覚しておけ。
命救われて、生き長らえたモノならば。
もうちっと、テメーの命も大事にしろ。
口に出して、ゾロが言うコトはないが。
サンジの優しさを目にする度、そんな思いが過る。
口は悪いし、脚癖も悪い。
何処のチンピラだと、言いたくなる様な態度。
女尊男卑が激しくて、女にめろめろとだらしない。
男に対しては、ぞんざいな態度を取ってはいるが。
ソレも上辺だけで、根底からな訳ではない。
窮地にでもなれば、己を顧みず身を呈すコトも厭わないのではないだろうか。
そんなヤツだから、いつか仲間を庇って、アッサリ死にそうだ。
長生き、出来そうにないタイプだ。
海賊稼業に、長生きも無いかもしれないけれど。
でもまあ、そういう所も含めてサンジという人間なのだ。
ゾロは元々、白か黒か。ハッキリ・キッチリさせたいタイプである。
それは、好きか嫌いか。コレにも、同じコトが言えた。
けれどサンジのコトを、好きか嫌いかと聞かれたら。
嫌いじゃない。
曖昧な感じではあるが、こうとしか言えなかった。
決して嫌いではないが、素直に好きと言える様な相手でもない。
色々と思うコト、感じるコト。複雑なのだ。
好きとは言えない。
ヤツのコトは嫌いじゃない、信頼もしてる。
ムカつく野郎だけどな。
ゾロはサンジのコトを、そんな風に思っている。