今まで同じ年頃の人間との、接点もなければ、友人等と呼べる存在もいなかった。
子供の頃から船に乗り、殆どの年月を其処で過ごしてきた。
結果、当然といえば当然のコトである。
周囲にいるのは皆、自分よりも年上の大人ばかり。
子供なのは、自分のみで。
だからからかわれたり、何かしらの標的にされてきた。
それが嫌で、悔しくて。
子供なのだから、子供らしくしていれば良いのだろうが。
子供扱いされるコトを嫌うのも、また事実で。
背伸びして、嘗められない様に。身体的に敵わないのなら、せめて口でくらい負かしてやりたい。
そうして、口は達者になった。
弊害として多少、口が悪いかもしれないが。
まあ、男なのだから、その辺りは問題ないだろう。
結果として、達者になったコトが良かったのか、悪かったのか解らないけれど。
メリー号に乗るコトになり、暫く出来た同年代の仲間。
今まで一番年下であったのに、自分が一番の年長者であるのコトが、何だかオカシナ感じがする。
ルフィやウソップ、この二人は良い。
馬鹿な話しや、下らないコトで盛り上がれたり、ノリも良い。
会話に事欠かないし、飽きるコトもなく楽しい。
ナミは、麗しいレディで。
例え冷たく無碍にあしらわれ様が、一向に構わないし己が尽すまでだ。
たまに、ちょこっと褒められただけで、めろめろになれるし、満足で倖せだ。
問題は、ゾロだ。
同い年だというコトに、とりあえず驚いたりもした。
というか、そんな風に見えない。あの恰好とか…。
まあ、それは兎も角。
正直な話し、仲良くしたいと思っていたりするのが、サンジの本音だ。
しかし、思っているのだが、上手くいかないのもまた事実である。
口を開けばキツイ物言いに、憎まれ口を叩き、ウッカリ足も出てしまう始末。
普通に会話をしたいだけなのに、どうして上手くいかないのかと悩む。
同じ年齢というのが、そうさせるのだろうか。
けれど仮に、ルフィやウソップが同じ年だったとしても。
ココまで激しく意識するとは、思えない。
となると、突っ掛かってしまう理由は、相手がゾロだから。
単純明快、解り易い理由だ。
唯、ゾロだから。それだけ。
どうにも、負けたくないという想いが強く、全面に出てしまう。
だからと言って、ゾロと闘い勝ちたいのかと問われれば、そういう訳でもない。
負けたくないから、勝ちたい訳じゃない。
ややこしくて、複雑だけれど、負けたくないのと勝ちたいというのは、違うと思っている。
どう違うのか聞かれても、上手く説明出来ないが。
ゾロは剣士で、闘うコトを避けられない側に在る。
逆に自分は、コックだ。
とはいえ、乗組員の少ないメリー号に於いて、自分が戦闘に駆り出されるコトは少なくない。
仮に戦闘が起きたとして、簡単にやられる程、弱くないと自負している。
が、それでも自分は、あくまでコックとしてこの船に乗るコトを誘われたのだ。
だから認められたい、というのが一番合うのかもしれない。
それでもまあ、背中を預けて闘える程度には、認められ信頼されているとは思うけれど。
ゾロの前だと、どうにもサンジ自身ムキになったり、子供っぽくなりがちだ。
他の誰かに言われたなら、サラッと流せそうなコトにも一々、反応を返してしまう。
癇に障るというか、小馬鹿にされてる様に聞こえるのだ。
コレも、お互いの年齢が同じでなければ、違ったのかもしれない。
ゾロの方が年下であれば、年下相手に大人気ない。
なんて、冷静に思える自分も居たかもしれないが。
現実は同い年、この事実が変わるコトはないのだ。
でも性格を考えたら、年は関係無く、今とあまり変わらない様な気もするけれど。
仲良しこよしな関係を築きたい、という訳ではない。
単純に、悪態や喧嘩するだけでなく、普通の会話を交わせる様な。
そういうのがあっても、良いとサンジは思うのだ。
だから今の関係で、足りないモノ。
コミュニケーションが、何より不足している。
幾らサンジが話し掛けても、ゾロから返ってくる言葉は一言二言。
元々ゾロは、無口だというのもあるかもしれない。
けれどコレは、あんまりだとも思う。
仲良くしたいと思うのに、仲良くするなんて程遠いではないか。
まあ、話しをするだけが仲良くなる手段とは限らないけれど。
例えば、拳で語り合うとか…。
それは出来ない、自分はコックなのだから、手を使い負傷でもしたら大事だ。
ならば本音で語り合うとか。
いやいやいや、本音は兎も角として、語り合えないから困っているのだ。
大体ゾロには、会話をする気があるのか。その辺からして、既に怪しい。
そもそもサンジが憎まれ口を叩いてしまうのも、ゾロが一言二言しか返事をしてくれないからだ。
思い出すと、腹立たしい気分になってくる。
こんなに歩み寄ろうと、自分は思っているのに。何々だ、あの態度は。
自身のコトを棚に上げ、悪いのはゾロの方なのだ。
そういったサンジの思考も、原因があるのだが。
自分が悪いとは、一切思わない所がサンジのサンジたる所以かもしれない。
ゾロに投げ遣りと思える、ぞんざいな態度を取り続けられ、サンジはキレる。
そんな状態で、ゾロが一を言えば十を返す勢いのサンジに。
ゾロは言い負かせられないし、熱くなっているサンジは、何を言っても聞かない。
そして次第に面倒になる。
結果、ゾロは眉間に深い皺を寄せ、黙り込んでしまう。
その事実を、サンジは知らない。
ゾロも言わないから当然、伝わらない。
ループである。
刺々しい物言いが、いけないのかもしれない。
ふと思い、ならば話し掛け方を、変えてみたらどうだろうか。
例えば、
『ボンソワ~ル。』
等と無駄にキラキラ輝く効果音が付く様な、爽やかな笑みを浮かべながらとか。
「…。」
有り得ない。
女性相手でもないのに何故、野郎相手に愛想を振り撒かねばならぬのか。
その様を想像し、サンジはうえっと眉を顰める。
もうこうなったらアレだ、憎まれ口を叩かない以外に他ない。
ウッカリ口から出そうになったら、深呼吸し一拍置く。
こうすれば、少し冷静さを取り戻せる筈。
思い立ったら、即実践。
この日から、サンジの努力が始まった。
そうして暫く、以前の様に、憎まれ口を叩かず、上手く行っている。
サンジ自身は、自然に振る舞えていると思っている。
だが実際、周りから見ると、とてもそうは見えていなかった。
自然に自然に、という思いにばかり意識が向いている所為か。
その様は、不自然極まりない。
しかも、憎まれ口を上がらせないコトが、ストレスを溜めてしまうのか。
常に凶悪面を晒していた。
そんなサンジの姿に、ナミは自身に全く害は無い為、我関せずと態度を崩さず。
ゾロは眉を顰め胡散気な眼差しを向け。
ルフィは、全く気にしていないのか。それとも単に、気付いてないだけなのか。
後者の可能性が、非常に高いが。
ウソップは、訳も解らずびびっている。
そんなメリー号の様子を、サンジは知らない。
ましてや自分の所為だなんてコトに、微塵も気付かない。
誰も何も言わない所為で、いつ終わるともしれない耐久レースが始められていた。
サンジ自身が耐え切れなくなるのが先か、他の誰かが我慢出来なくなるのが先か。
険悪な雰囲気を余所に、今日もメリー号はのんびりと、グランドラインを進む。