知らぬ存ぜぬ、己が心










目は口ほどに物を言う。』

なんて、よく言ったモノだ。

良くも悪くも、メリー号の乗組員は素直である。

素直というよりも。

隠し事が出来ないというか、嘘が吐けないというか。

表現としては、微妙な所ではあるが。

要するに、解り易い人間ばかりなのだ。

それでも、嘘はマシな方かもしれない。

特にウソップは、嘘に於いては彼の専売特許でもあるくらいだし。

嗚呼、でも。

彼の場合、嘘というよりは、法螺というべきだろうか?

その辺がまた、微妙な所だが。とりあえず、細かいコトは気にしない。

ルフィとチョッパーの二人は、一目瞭然で直ぐに解る。

二人とも挙動不審で、チョッパーに至っては無意識の内、言葉にしてしまう始末だ。

そこがまた、可愛いというのか微笑ましい所でもあるけれど。

思わず、そんなチョッパーの姿を思い浮かべ。サンジの口元に、笑みが浮かぶ。

そんな彼等とは逆に、全く解らない人間もいる。

ゾロだ。

普段はアホみたいに寝ているか、アホみたいに鍛練しているか。

このどちらかが、大半を占めているゾロは。

殆ど、無表情だ。

それはもう、表情筋が無いのではないかと疑いたくなる程変わらないし、読めない。

精々、表情と呼べるのは。

眉間に皺を寄せた、顰めっ面。しかも、凶悪といえる様な悪人面だ。

まあ笑うコトが、全く無い訳ではないが。

ニヤリとした、挑発的なモノや小馬鹿にした様なモノばかりだ。

にこりと微笑む何てのは、見たコトが無い

というか、ソレはソレで何だか微妙だ。ゾロのキャラと、かけ離れている。

でも悪いわけでは無いだろう。

唯、何となく、落ち着かなそうな気がする。

別段、ゾロの満面の笑みを見たいとか、そういう訳ではない。

本来サンジにとって、野郎がどの様な表情をしていても、知ったコトではない。

寧ろ、どうでも良い筈なのである。

相手が女性で、何をしても無表情であれば、一大事であるけれど。

何故だか、気になってしまうのだから、仕方無い。

解らないから、気に掛る。人間というのは、そういうモノに興味を魅かれる。

だから他意は無いのだと、サンジは誰ともなしに言い訳する。

兎に角、ゾロが浮かべるのは凡そ、凶悪なモノか無表情のどちらかが占めている。

コレは、食事時にもいえるコトで。

何よりサンジが気に掛かるのは、その点だった。

大概の人間は、食事というのは嬉しいモノであったり、楽しみなモノである。

美味しい物を口にすれば、自然と笑みが浮かんできたりする。

例えば、ルフィ。

食べるコトとなると、それはもう凄まじい。

底が無いのではないかと思える程の胃袋の持ち主で、毎回作る量も半端ではない。

にも関わらず、ペロリとたいらげてしまう。

それでも足りないのか、ウソップ達の皿にまで、手を出す始末。

頬をいっぱいに膨らませ、一心不乱に搔き込む姿は。

食べるコトに夢中なのか、無表情だ。

いや、いやいやいや。

今のは、想像する場面が悪かった。

食べている時は、無表情かもしれない。

が、食前や食後は、きちんと表情がある。

涎を垂らし、目をキラキラと輝かせたり。全てたいらげ、満足そうにしたり。

旨いと感想も、口にする。

他のメンバーも、ナミにビビ。ウソップやチョッパーも、美味しそうに食べてくれる。

美味しそう、ではなく。実際に、美味しいのだが。

そんな姿を見るのが、サンジは好きだった。

だから気になる、目が行くのだ、ゾロに。

彼等を余所に、ゾロは恐ろしいまでに無表情。

黙々と出された食事に手を伸ばし、口に運ぶ。

何を思い、考えているのか全く解らない。

不味い物を出している筈がない。

何せこの自分が、食事を作っているのだ。海の一流コックである、この自分が。

それなのにヤツは、旨い等と感想を口にしたコトもない。

一体、何々だアイツは。

方向音痴だけでは飽き足らず、味覚音痴でもあるのか?

それとも、味覚障害か何かの類なのだろうか??

もしそうであるなら、感想を聞くのも、表情に出せというのも酷というもの。

味が解らないのであれば、仕方がない。

納得しかけ、思い留まる。

だがしかし、ゾロは酒飲みだ。

それも、只の酒飲みではない。

大酒飲み。ザル…、否、それ以上ワクだ。

兎に角、よく酒を飲む。水を飲んでるかの如く、勢いよく飲む。

安い酒も、高い酒も関係無く、そりゃもうがばがばと。

美味いと言って、酒を飲んでいる。

つまり、味覚が無い訳ではない。となれば、単に味音痴なだけか…。

そう思い食事時、サンジはゾロの様子をさり気無く観察するようになった。

毎度の様に、繰り返していると、無表情という訳でもないコトが解った。

眉を吊り上げたり、目尻が微かに弛んだり、口角が上がったり。

好物と思える物は、噛む回数が少し多かったり。

逆にそれ程、好みでない物の時は、スグに飲み込んでしまう。

一瞬、極僅かな変化ではあるが、表情と呼べるモノを浮かべていた。

それが解れば、現金なもので、知らず自分の口元も綻んだし。

その様子を目にするのが、楽しみにもなる。

相変わらず、ゾロが言葉を口にするコトは無いけれど。

いつか絶対に、ゾロの口から旨いと言わせてやる。

そう思いながらも、サンジにとっては、満足の行くモノだった。

一見、無表情に見えて、実はそうではないコト。

周りの人間が気付かない、些細な変化も自分だけが解るコト。

それに対して、ほんの少し優越感を覚えているコトを。

意識して観察を続ける前から、無意識の内にゾロの姿を追い続けていた事実を。

サンジ自身は、知る由もなかった。







END.





基本的には、サンジも態度に出やすい方だと思う。
2008.12.