「おー、財前。誕生日おめでとさん」 朝、学校(と言うか部活)に行くと、先輩らに声を掛けられた。 「…はあ、ありがとうございます」 「何や、財前。相変わらず、そっけないやっちゃなぁ」 それらに返事をすると、ユウジ先輩に突っ込まれる。 別段、今に始まったコトでも無い、普段と何ら変わらない遣り取りだった。 今日が誕生日だというコトは、親に言われていたので解っていたし。 加えて数日前から、先輩らがそわそわと何事か仕込んでいるコトに気付いていた。 特に、謙也さんなんかは、隠し事をするのが下手で。 本人は、上手いコト隠してるつもりだった様だが、バレバレな態度だった。 お陰で気付かない振りをしたり、俺の方が逆に気遣いする羽目になっていた。 ホンマに、主役となる相手に気ぃ遣わせるって、どういうコトやと思うが。 でもまあ、相手が謙也さんやし、しゃーないかと思い直した。 テニス部内で、一番隠し事や嘘が苦手なのは、金ちゃんやろうけど。 さすがに話したら、一発でバレルのが目に見えている為、知らせていないのだろう。 見た限り、いつもと変わらぬ様子でテニスして、たこ焼き食いたい~、毒種嫌や~騒いどったし。 そこは、賢明な判断だろうと思った。 何だかんだ言いながら(まあ、お祭り好きとか、単に騒ぎたいだけなコトもあるだろうが) こうして、誕生日を企画して祝ってくれようとしてくれるのは、有り難いコトなのだろうと思う。 思うけれど、口に出して言ったりしない。 つっつかれたり、絡まれたり。調子に乗るだけだろうし。 何より、恩着せがましく言われるのも目に見える。 まあ、先輩らがこういうコトをしてくるのは、嬉しくない訳ではない。 でもだからこそ、折角の誕生日なのだし、先輩にも祝って貰えないモノだろうかとも思う。 そう思うも、そもそも先輩は俺の誕生日を知っているのだろうか? ……否、言った覚えはないから、知っている可能性の方が低い。 今日は委員会も無いし、顔を会わせる機会が特には無い。 となると、先輩に会うには、自分の方から行動しなければならない。 しかし、だからと言って、教室へ行くのは微妙だ。 先輩は、白石部長や謙也さんと同じクラスだし。行けば確実に、二人と鉢合わせる。 色々と言われるのも、鬱陶しいし面倒だ。そんな事態は、出来れば避けたい。 何や、上手いコト行かんモノやな…。と、思わず溜め息が零れた。 「財前くん!!」 そう思っている所に、声を掛けられる。 「…先輩?」 振り返ってみれば、今まさに考えていた本人が居た。 「何かあったんスか?」 笑顔を浮かべながら、近付いてくる先輩を見ながら。 二年の教室、廊下に来るなんて滅多に無いコトだ。 「財前くん今日、誕生日なんだって? おめでとう~!!」 用事でもあるのだろうかと、首を傾げると。 思ってもみなかったコトを言われ、面食らう。 「…わざわざ、それ言いにきたんスか?」 「うん、教室で白石くんと忍足くんが話してるのを聞いてさ」 即答され、まじまじと先輩の顔を見てしまう。 つい先程まで、祝って欲しいと思っていたにも関わらず。 突然過ぎて、嬉しいだとか現実味やら実感が沸かない。 けれど、徐々に実際の出来事だと認識すると。 部長らナイスと、心の中でこっそりと賛辞を贈った。 「そんな訳で、たいしたモノじゃないんだけど。はいコレ、プレゼント」 祝いの言葉のみならず、プレゼントまで貰えるとは予想外だ。 手渡されたのは、何ら変哲もない一枚の封筒。 中を開けると、二枚の紙切れが入っていた。 「何ッスか、コレ?」 「ふっふっふー、聞いて驚くなよー。何と、甘味堂の無料引換券!!」 「ッ?!」 甘味堂と言えば、この界隈では有名だし、俺の中で1.2を争う程の美味い店。 値段は他の店に比べると、少しばかり高めなのだが。 でも相応以上の味で、白玉のもちもち感や、餡子の甘さだとか絶妙で絶品。 「二枚も貰って、エエんですか?」 「勿論、折角の誕生日なんだから、彼女とでも行くと良いよ」 「……せやから、彼女なんて居ない言うとるやないスか」 「そうだっけ?」 そう言って首を傾げる先輩を横目に、こっそり溜め息を吐く。 彼女も居ないし、言う程モテル訳でも無いと言うのに。 その一言で、上がっていたテンションが若干、下がる。 何だかなーと思いつつ、暫く先輩と貰ったプレゼントを交互に見つめ。 ふと、良い考えが浮かぶ。 「先輩、今日の放課後何か予定とかありますか?」 「うん? 特に用事は無いけど」 「ほな、一緒に甘味堂行きませんか?」 「…私と? でも放課後、テニス部で何かあるんじゃないの?」 「あー…、心配せんでも朝、祝って貰いましたんで大丈夫ッスわ」 「ふーん…。まあ、財前くんが良いなら、私は構わないけどさ」 「それじゃあ、授業終わったら校門の所で待っとって下さい」 「解った、じゃあまた放課後にね~」 そう言って先輩は、教室に戻って行った。 先輩に言ったのは、半分は本当で半分は嘘だ。 祝いの言葉は確かに貰ったが、それ以外は特に何も無かった。 放課後、部活終わりに準備をしていたのだろう。 朝は時間も無いし、何か貰ったとしても嵩張るだけだ。 まあ、ロッカーにでも入れておけば、問題は無いのだが。 とりあえず、あの先輩らのコトだから、ケーキの変わりに、白玉ぜんざいを用意しているであろう。 そして小春先輩が、俺にちょっかいを掛けた所に、ユウジ先輩がいつもの如く絡んでくる。 そんな先輩らを白石部長が窘め、金ちゃんや謙也さんらが笑って見てる。 大体、こんな感じだろう。 いつもと変わらない風景、先輩らの気持ちやらも有り難くは思うが。 この暑い中、男に囲まれべたべたされるのも如何なモノか。 それに、今日は俺の誕生日な訳だし。これ位の我が儘は、許されるだろう。 とは言え、家の用があるとか言うて、本当のコトは言わないでおく。 きっと予定が狂ったと、先輩らは慌てるやろな。 お前の所為でバレタんや。とか何とか、ちょっとした喧嘩になりそうだ。 その様子が目に浮かぶ様で、ククッと込み上げてくる笑みを、奥歯で噛み殺した。 「先輩らのプレゼントは、俺の誕生日を先輩に教えてくれはったコトでエエですわ」 届くコトの無い言葉を、白石部長らに向けて呟いた。 だから恐らく明日、ぶつぶつと言ってくるであろう文句も、しゃーないから黙って聞いたりますわ。 …まあ、右から左に聞き流しますけど。 たかが誕生日と思っていたが、なかなか良い日だなあと、誰にともなく感謝した。 |
2010.07.20