財前くんの耳には、左右合わせて五個のピアスがある。 それはキラキラ光っている、財前光なだけに。 洒落か? …うん、寒いな。 まあ兎も角。 初めて会った時、既にその耳にはピアスが付いていた。 ピアスは全部違う色で、まるで五輪を私に思い起こさせる。 そんな財前くんは、お洒落さんだと思う訳だが。 けれど、ピアスと言えば例の言葉が頭を過る。 「ピアス開けると運命が変わる、って言うけど財前くんはどう思う?」 「何すか、急に?」 「別に、財前くんのピアス見てたら思い出しただけ」 「ほな先輩は、信じとるんですか?」 「否、全く。だってさ、そんな簡単に運命変わるなら、ピアス開けまくりじゃない?」 私が質問したにも関わらず、財前くんは逆に問い返してきた。 答える気は無いってコトなんですかね? まあ、良いけどさ。 とりあえず、私は信じてなどいない。 そんな簡単に、お手軽に運命が変わるなんて。 どんだけ、単純にこの世は出来ているのかって話しだ。 けれどこの考えでいくと、財前くんのピアスの数は、その結果と言えなくもないのか? だって、五個も付けてる訳だし。 いやいや、でもなあ。 私が思うに財前くんは、そういうコトを信じるタイプには見えない。 どちらかと言うと、ドライでリアリスト。口から出てくる言葉も、鋭く冷たいし。 とは言え、普段から飄々と何事に於いてもクールにこなしている財前くんも。 胸には熱い想いを秘めているんじゃないかな、とか思ったりするのだが、どうだろう? まあ、聞いた所で教えてくれないだろうし、流されるのがオチだろうから口にはしないけど。 「それに、何を持って運命が変わったかなんて、証明出来ないでしょう? 基準とか、有る訳じゃないし」 そうだ、コレが一番難しく厄介な所である。 ちょっと良いコトやら、上手い具合にコトが進んだとか。 そういうのは、運だったり、今までしてきた努力の積み重ねだったりする訳で。 「ほな、先輩が思うんは、どないなコトっスか?」 「うーん…、朝起きたらお金持ちになってた。とか?」 「根本的に間違ってると思いますわ」 「やっぱり?」 絶対にそんなコト、ある訳が無い。 でも、このくらい劇的な変化が見て取れなければ、変わったなんて到底思えない。 ようするに、こじつけだったり。 心機一転、そうしたきっかけ作りと言ったモノなのかもしれない。 「先輩は、ピアス開けたいとか思うとるんですか?」 「私? まあ良いかなー、とは思うけど。多分、開けないと思うなあ」 自分自身がピアスを開ける、という発想は微塵も無かった。 確かにピアスは、可愛いデザインのモノとか豊富で。 色々と、見ているだけで楽しいけれど。 「何でですか?」 「耳たぶを触るのが、好きだから」 「は?」 「耳たぶ触るのが好きって言うか、癖みたいな感じ? だから、ピアスしてたら触っても感触がイマイチでしょう?」 「…そうっスか」 そう言って財前くんは、何か言いた気な微妙な表情をした。 けれどそれ以上、何も言うコトは無かった。 そんな財前くんの姿に、こっそり笑みを浮かべる。 私は、こうして見てるだけで充分だ。 そもそも、こんなに身近でキレイなモノが見れるのだから。 まあ、財前くんには、ホントのコトを教えてはあげない、内緒だけど。 |
2010.05.29