突然ですが、私は美化委員会に所属しています。 美化委員会の仕事といえば、校内の美化に努めるコト。 率先して、ゴミ拾いや掃除をしたり。 ポイ捨て防止の呼び掛けや、その為のポスターを張ったり。 地味に仕事が多い委員会と認知されている為。 入るのを敬遠される委員会ナンバーワン、なんて言われていたりもする。 そんな美化委員の活動理念は、奉仕の心。だ。 だからといって、私自身が人に感謝されるコトに喜びを感じる、とか。 人の喜ぶ顔を見て倖せになる、等という崇高な理念を持った人間という訳でもない。 どちらかと言うと、何となく入ってしまった感が強い。 何かしら部活をしている訳でもなく、早く帰宅した所で毎日するコトがある訳でもない。 まあ、それなら勉強でもしろよ。って話しかもしれないが…。 とりあえず、それは今、おいておくとして。 家に帰っても、ゴロゴロしてるだけなら時間を潰す。ではないけれど。 もう少し有効な活用法があるのではないだろうか? 大体、そんな考えから美化委員会に入った。 動機としては、やや不純かもしれないが。入ったからには勿論、手を抜くなんてコトはしない。 でもまあ、コレが家での作業であれば、若干話しは変わってくるかもしれないが…。 だらだらと、前置きが長くなってしまったが。 本日の、委員会活動は花を植えるコトである。校内緑化推進計画、とでもいうのか。 校内の至る所に花を置けば、ポイ捨て等によるゴミを減らせ。 且つ、同時に美しい生活環境にもなる素晴らしいコト。とかなんとか。そんな感じで、決定した。 そうは言っても、立海の校内は広いし、花壇や庭園といったモノも多くある訳で。 一度に全てを変えるコトなど、到底無理な話しだ。 なので今回は、花をプランターに移し、指定された場所へ運ぶコトがメインだ。 「あれ、。一人?」 「幸村くん」 声を掛けられ、周りを見回せば2、3人のグループになり作業に取り掛かっていた。 (…いつの間に、というか皆、素早い!!) 出遅れた感、満載だ。 「俺も丁度一人だし、一緒に作業しようか」 「そうだね、宜しく」 幸村くんと知り合いになったのは、委員会を通してなのだが。 元々、有名人だったコトもあり、ある程度の情報は自然と入ってくる。 同年代の男子なんかと比べても、こう穏やかというか。 がさつだったり、乱暴的な感じの、ちょっと関わりたくないタイプの人達とはま逆な人だと思う。 優しくて、親切だし。話し方なんかも、落ち着いてる。 でも、強豪と言われる立海テニス部の部長を務めており。 あの個性的? 一癖も二癖もある様な面々を纏め上げているのだから。 それだけではない、何かを持ち合わせているのだろうなあ、と密かに思っている。 けれど私としては、敢えてその部分を知りたいとは思わない。 理由は、何となく知らない方が良い気がするから。だ。 漠然とした、直感の様なモノだけれど。 それに幸村くんとは、委員会での付き合いしかないし。それ以上でも、それ以下でもない。 私自身、特別に何処かしらが秀でた人間ではないし。 この位の関係が、丁度良いと思っている所為もあるかもしれない。 つらつらと、そんなコトを考えながら、ちらりと幸村くんの方へ視線を向ける。 「…幸村くん、何だか慣れてるね」 「そう? まあ、ガーデニングが趣味だから、家でも花の世話とかしてるからね」 「へえ、そうなんだ」 趣味が、ガーデニングだなんて男の人にしては、珍しい気がする。 勿論、悪い訳じゃないし。 何より幸村くん自身、花が似合うし。寧ろ、イメージにぴったりな趣味だと思う。 「じゃあ、美化委員になったのも、そういう理由?」 「うん、まあ、それもある、かな…?」 そう言って、ふふっと何処か意味深な笑みを浮かべた。 …様な気がする。 何だか、ちょっと引っ掛かる言い方だけど…。 でも幸村くんが口にしなかった以上、深く追求するのもどうかと思うし。凄く、憚れる。 それに、聞いた所で答えてくれない気もする。 でも、テニス部の練習だけでも大変だと思うのに。 仕事が割と多い美化委員に入るのだから、凄いなと感心してしまう。 やっぱり、強豪テニス部の部長を務めあげるくらいの人間となると。 器が大きいというか、私みたいな凡人には計りしれないのだろう。 そんな感じで、この日は最後まで幸村くんと話しながら作業をした。 花に水をあげるのも、美化委員の仕事だったりする。 前にも言った通り、立海の校内は広い。 その為、3、4人程度の人数で当番制になっている。 今の時期だと、朝・昼休み・放課後の3回水をあげるコトになっている。 それぞれが水をあげる場所も、大体決まっている。 担当する人が休みだったり、急用等で出来ない時は、その人の近い場所を担当してる人が代行している。 とりあえず、私のグループはそうなだけで、他の人達がどうなのかはよく知らない。 皆、効率的な割り振りをしていると思うが。そんな訳で、今日は私の班が水遣り当番だ。 昼休み、花壇の傍に行くと見知った姿を見付けた。 「幸村くん」 声を掛けると幸村くんは振り返り、笑みを浮かべた。 こうして、花壇で幸村くんに会うのは今日が初めてではない。 一番初めに、当番が回ってきた時。ココで幸村くんに会った。 どうしたのかと理由を聞くと、花壇の花を見に来たとのコトだった。 それから毎回の様に、幸村くんはこの場所に居る。 本当に、植物のコトが好きなんだなぁ。 幸村くんのそんな姿を見て、しみじみと思った。 まあ、こんな感じなので、随分と話しをする様にもなった。 たまに、お弁当を持ってきて一緒に食べたりもする。 会話の内容は、その日あったコトとか、世間話の様なものだったり。 後は、植物関係の話しだろうか。 ガーデニングが趣味、というだけあって幸村くんは、植物のコトに大変詳しかった。 私はと言えば、有名な花なら知っている程度の知識しかない。 その為、聞いていてもよく解らない、知らないモノの方が断然多かった。 だから専ら凄いなー…。なんて幸村くんに感心するばかりだ。 でもある時、花の名前や種類をあまり知らな過ぎるのも女としてどうなのだろうか…? ふとそう思い、図書室で植物図鑑を見たり、草花関連の本をこっそり借りてみたりした。 植物は膨大な種類がある訳で、そう簡単に知識が増える訳でもないが。 見ないよりかは、幾分マシかな? くらいの心意気だ。 まあ、まだまだ幸村くんの知識量には足元にも及ばないが。 ぶっちゃけ、比べるコト自体が間違いというか、おこがましのだろうけれど。 その日の放課後。 花壇へ水をあげに行くと、衝撃的な光景が広がっていた。 「ッ?!」 目の前には、無数の足跡があちこちに付いて、滅茶苦茶に踏み荒らされ。 花もくたりとして、何とも無残なモノだった。 昼休み、数時間前までは、キレイに花も咲いていたのに。 「…」 あまりのコトに、呆然となる。 「?」 暫く立ち尽くしていると、声を掛けられた。 「…幸村くん」 振り返ると部活中なのか、ユニホーム姿の幸村くんが居た。 いつもと、雰囲気が違うなー、と思いながらも。 目の前の惨状を、何と言って良いのか解らず。それ以上は、何も言えなかった。 そんな私の、異変に気が付いたのか。 幸村くんは、何も言わず花壇の方へと近付いてきた。 「…コレは」 私の隣に立ち、花壇の現状を目にし、息を呑むのが解った。 「酷いな」 「うん、私がきた時には、もうこんな状態だったよ…」 一体、誰がこんなコトをしたのか。 犯人に対して、腹が立つ。というよりは、ショックと言う方が大きい。 花壇に立ち入らないコトが一番だけど、止むを得ない場合も無きにしも非ずだろうし。 せめて、花を避けるとか。そういう配慮というか、出来なかったのだろうかと思ってしまう。 うん、出来ないから今この痛ましい有り様になっているのか。 「ん?」 「どうかした?」 徐に幸村くんが、 その手には、小さくて黄色い、ボールの様なモノが握られていた。……気がする。 一瞬のコトで、よく見えなかったから解らないけれど。 「、花壇直すんだろう?」 「え? うん、そのつもりだけど…」 「じゃあ俺も手伝うから、少し待ってて?」 「でも幸村くん、部活中なんじゃないの?」 「ああ、問題無いから、大丈夫」 「そう」 幸村くんは部長だし、部長である幸村くんが言うなら、構わないのだろう。 それならば私には、断る理由も無かった。 何より、一人で片付けられる気も、実はしていなかった為。 その申し出は正直、有り難いコトだった。 「じゃあ、ちょっと待ってて」 そう言って幸村くんは、背を向け歩いて行った。 多分、テニス部の人達に、指示とか出しにテニスコートに向かったのだろう。 その背を見送りながら、やっぱり申し訳ないなぁという気持ちになった。 でも、幸村くんが良いと決めたコトだし。私がとやかく言うのも、変な話しだろう。 とりあえず、幸村くんが戻ってくる前に、花壇の手入れをする道具を取りに行こうと、私もその場を離れた。 「お待たせ」 道具も揃い、何処から始め様か考えていると、幸村くんの声がした。 そうして振り返ると、幸村くんと他数名。テニス部レギュラー陣の姿があった。 「人手があった方が良いと思って、話したら皆、手伝ってくれるって」 「そ、そうなんだ…」 笑顔で告げてくる幸村くんに、私の口元は若干、引き攣ってしまう。 でもそれは、仕方ないコトだと思う。 否、幸村くんに対して、というよりは、一緒に居るメンバーに対してというか。 あれだけ大きな人達が、揃うのは壮観だ。 迫力があるし全員揃った所なんて初めて見たし、何とも言えない光景だった。 そんな感じで、私にはアレコレ指示を出すなど、到底出来る筈もなく。 幸村くんを主体とし、作業が開始された。 さすがテニス部の部長を務め、大勢の人間を纏め上げているだけあって。 無駄なく、的確な指示が幸村くんから出される。 唯、一つだけ。 敢えて言うならば、これだけの人数がいると、作業効率も高い。 しかしながら、皆大きい人達なので、花壇が狭く感じるというか。 善意? で手伝ってくれている訳だし、文句は無いのだけれど。 ちょっと、作業し辛そうだなあ。と申し訳無くも思えた。 「…何で俺らがこんなコト…」 ぶつぶつと愚痴る声が耳に届き、ちらりと聞こえた方を振り返る。 ウエーブがかった髪の、知らない顔だった。 恐らく、同級生でなく後輩なのだろう。名前は知らないが。 コレで少なくとも、彼は手伝い等したくなかったコトが判明した。 (まあ、普通はそうだよね…) ぼんやり、そんなコトを考えていると。 「赤也!! 何か言ったかいッ?!」 「な、何も言って無いッス!!!」 幸村くんの、叱責が飛んできた。 その声に、赤也くんという子は、びくっと身体を疎ませ返事をした。 (…ココから幸村くんの場所まで、それなりに距離があるのに。聞こえてたんだ) 凄いな。 地獄耳というのか、やはり強豪テニス部の部長。 そういう所も、格が違うのだろう。思わず感心してしまう。 ちらりと横目で、黙々と作業をしている他の面々を見る。 この面子で、率先して手伝いを申し出るのは柳生くんくらいじゃないだろうかと思う。 柳生くんとは、昨年同じクラスだったから、彼が手伝ってくれるのは納得出来た。 後は、真田くん・柳くん・桑原くん辺りは、時と場合によっては。というのが、私の見立てだ。 強ち間違いではないと思うが、どうだろうか? …なんて誰にも聞けないし、同意を求めるコトは出来ないが。 でもまあ、理由はどうあれ、こうして手伝ってくれているのは事実だし。 それで良いかと、素直に感謝するコトにしようと思う。 こうして、総勢10人掛かりでの作業は滞りなく進み。 花壇も元通り、とまではいかないが。それなりに、修復出来た。 お礼を述べると、気にするなと真田くんが言った。 その言葉に、柳くんと柳生くんが頷きながら同意し。 桑原くん達も、同じ様なコトを言いながら、苦笑を浮かべていた。 あの赤也くんという子だけは、憮然とした表情だったが。何も言わず無言だった。 とりあえず、賢明な判断なのだろう。 作業に使った道具も、片付けてくれるとのコトだったので。 悪いと思いつつも、お願いするコトにした。 「じゃあ、また明日」 「あ、うん。ありがとう、お疲れ様」 そう声を掛け、その場で別れた。 遠ざかって行く、彼等の後ろ姿を見送りながら。 私はこの日。 幸村くんが部長な理由が、解った気がした。 |
2010.10.17