忍足くんは、優しくていい人。 私が四天宝寺中に転校してきて、一番最初に声を掛けてくれたのが忍足くんだった。 同じクラスで、隣の席というのもあったけれど。 関東から関西へ来るのは、未知の領域に足を踏み入れる様で。 馴染めるか、とか。友達は出来るかな、とか。正直不安だった。 色々と考えていた不安を余所に、みんな優しく親切で、いい人達ばかりで安心した。 とはいえ、学校の校風は未だ理解の範疇を超えている所はあるけれど。 そんなわけで、最初に仲良くなったのが忍足くん。 次いで忍足くんと仲の良かった白石くんとも、話すようになったり。 忍足くんの幼馴染である、よっちゃんとも仲良くなった。 だから私が順風満帆な学校生活を送れているのは、忍足くんのお陰と言っても過言じゃない。 「はあー…」 後ろの席から、溜息が聞こえた。 どうしたんだろうと振り返ると、机に頬杖を付き暗い顔をした忍足くんの姿があった。 何だか元気がない。 落ち込んでる、とか凹んでいるという感じが漂っていた。 「どうしたの、忍足くん。溜息吐いて?」 「…」 尋ねると忍足くんは、視線だけを私の方へと向けた。 「俺って、そんなにアカンやろか?」 「え? え?? 何がダメなの?」 「…さっきな、女子に呼び止められてん。何や、思ったら手紙渡されたんや」 「わッ、ラブレター?!」 「そうや」 「モテモテだね、忍足くん!!」 凄いな、ラブレターなんて。 私も一度で良いから、貰ってみたい。 そう思っていると、忍足くんは大きな溜息を吐いた。 「ちゃうねん」 「え?」 「まだ続きがあってな、頬染めてそんなんされたら期待してまうやろ?」 「? うん」 「白石に渡して欲しい、言われてな」 その時のコトを思い出したのか、ちょっと遠い目をする。 「あんたなんかに、渡すわけない言われてん…」 そうして忍足くんの口からは、盛大な溜息が零れた。 た、大変だ!! いつも明るくて元気な忍足くんが、こんなに自信喪失して落ち込んでいる。 なんとかフォローして、励ましてあげないと!!! 使命感の様なモノを抱き、頭を捻る。 「そ、そんなコトないよ!! 忍足くんは、カッコイイよ!!!」 「……ほんまに?」 首を縦に、ぶんぶん振る。 「忍足くん、白石くんと仲良くて一緒に居るコト多いから。 その所為もあって、女子の視線の大半は白石くんに向いてちゃうから、霞んじゃってるけど。 立ち位置的に、ちょっと損してる所があるだけでカッコイイよ!!!!」 私の言葉に、忍足くんは微妙な顔をした。 (だ、ダメだ。この程度じゃ、忍足くんを励ましきれてない!!) もっと何か言わないと…。 「ええーと、えっと…。あ、そうだ!! 前にズボンのチャックが全開で。 わざと笑いを取る為に、そこまで体張ってるのかと思ったけど。 その後も二・三度あって。普通に閉め忘れてただけな、ウッカリさんな所が私は可愛いと思うよ。 よっちゃんに言わせると『だから二枚目になれない三枚目なんや』らしいけど。 でもそれも、一つの個性だと思うし。 あと、凄く足が速いでしょう? 浪速のスピードスター、なんて異名があって。 でもそのネーミングセンスは、ちょっと微妙でどうかなって思わなくもないけど。 あとあと、ペン回しが目にも止まらぬくらい凄く早くて。 その内、ノートや教科書を貫通して、机に突き刺さるんじゃないかな? とか心配になったりするけど。 凄い特技だと思うよ。確かペン回しの大会とかあったよね? 出場したら、絶対に上位を狙えるよ!! あ、それに変わった形の消しゴムコレクションとか。 若干消し難い感が否めないけど、でも折角のコレクションなのに、使っちゃって良いのかな? って。 貸してもらう時、いつも思ったりするんだよね。まあ、使ってなんぼなのかもしれないけど。 青汁好きとか、意外な所で健康志向だったり。 私はちょっと苦手だけど、イグアナの世話を毎日きちんとしてるのも凄いし。 他にも、好意的な相手から恋愛相談を受けたとしても、ちゃんと相談に乗ってあげる所とか。 後輩の財前くんだっけ? から先輩扱いされない、とか。 それ位、威張り散らさないとか、接し易くてフレンドリーな態度取られちゃうだけで。 きっと心の中では尊敬してだろうし、威厳がないとかいうわけじゃないよ。 テニスしてる時なんか、スピードスターの異名通り?キラキラ輝いてるし。 私がこうして、毎日楽しく学校に来れるのも忍足くんのお陰だし!! 友達想いで親切だし優しいし。情に脆くて感激屋さんで。 本当にたくさん、忍足くん良い所があるよ!! だから、もっと自信持って!! 私は忍足くん好きだよ!!!」 必死にフォローしようと、思いつく限りのコトを捲し立てた。 若干、途中で何が言いたいのか自分でもよく解らなくなったけど。 そうして、黙ってそれを聞いてた忍足くんは、青くなったり、涙目になったり、赤くなったりと。 実にいろんな表情を浮かべていた。 その横で、白石くんが机をばしばし叩きながら大爆笑していた。 「、最高やッ!!!」 目に涙まで溜め、お腹を抱えてそう言われた。 何が最高なんだろう? 私の褒め方? 上手いフォローだったのだろうか?? イマイチ解らず、私は首を傾げる。 「……お、おおきに」 私の言葉に、何処か引き攣った笑みを浮かべながら、忍足くんが言った。 元気、出たのかな? いつも私が元気を貰ったり、感謝している気持を、返せたなら良いんだけど。 でも誰かを励ます、とか。あまりしたコトないから、とても難しいコトなのだと実感した。 それをサラリとしている忍足くんは、やっぱり凄い人なのだと改めて思う。 対照的な二人を交互に見ながら、そんなコトを考えていた。 |
2010.04.24