「仁王くんて、かけひき上手な人がタイプなの?」

「何じゃ、いきなり」

「深い意味は無いけど、友達が言ってたから」

「まあ、そうじゃのう」

仁王くんの返事に、ふうんと返す。
何ていうか、大人っぽい? 同年代の思考からすると、結構そぐわない類に思えた。
アレ、でも何だろう。デジャヴ?
前にも似たようなコトがあった気がする。
何だっけ、と首を傾げて暫し考え、思い出す。

「そういえば昨年、柳くんと同じクラスだったんだけど」

「ほう、参謀と」

「でね、柳くんの好きなタイプは、計算高い人なんだって。
それ聞いて、仁王くんもだけど。同年代の人間として、その発想は凄いなって思ったの」

うん、そうだ。柳くんだ。
どういう経緯で、柳くんのタイプを知ったのかは忘れたけど。

「ようするに、仁王くんと柳くんの好きなタイプは、峰不二子ってコトだよね」

私の中で、二人のタイプに該当するのは、彼女しかいない。
加えて、美貌と知性まで兼ね備えてるなんて、最強だ。
そういう人が、仁王くんや柳くんの隣にいたら、それはもう絵になりそうだ。

「……あそこまで、金に執着を持ってるのはどうかと思うがのう」

一人納得してる私に、仁王くんがぼそっと零した。

「いやいや仁王くん、お金は大事だよ。無いよりあるに越したコトないし。幾らあっても困らない!!
ただ生きてるだけでも、お金は掛かるモノなんだから」

「…意外とは、シビアなコト言うのう」

そうだろうか?
自分では、よく解らないけれど。でも事実だし。
こうして私が学校に通えるのも、毎日ご飯が食べられるのも。
普通に生活出来るのは、お金があってこそ。
そして、そのお金を稼いでくれる親に感謝しなくてはならない。
父よ、私達の為に毎日ありがとう。心の中で、感謝の気持ちを述べた。

「テニス部内で、お互いの好みのタイプとか。そんな話しをしたりするの?」

ふと、そんな疑問が過り尋ねてみる。

「まあ、全くしない訳でも無いのう。丸井は物を、特に食べ物くれる人言うとったのう」

「それって凄く解り易くて、丸井くんらしいかも」

「ジャッカルは、色白でグラマーな人らしいぜよ」

「へえー、健全? な中高生って感じがするけど。でも女子の前で言ったら、引かれそうだね」

好みなんて、人それぞれだし。別に良いとは思うけど。
女子の前で話すとしたら、オブラートに包むというか、言い方を変えた方が良いだろうなと思う。
でも、グラマーの別な言い方って、何だろう?
……ぼいんちゃんとか?
いやいやいや、無い無い。絶対に無いよね、こんなの。
何か余計に、生々しくなっただけだもんね、コレじゃあ。

「柳生は、清らかな人やったか」

私が脳内で、そんな討論を繰り広げていると。
仁王くんが、現実に引き戻してくれた。

「その表現も凄いな。でも柳生くんて、紳士なんて言われたりしてるから、淑女がタイプとかかと思ってた」

絵になるだろうし、お似合いだと思うけど。
若干、現実味がない。とまでは言わないが。
この歳で、そんな恋人同士というのも、どうなんだろう。とは思ってしまう。

「幸村は…、健康な人とか言ってたかのう」

「う、うーん…。それは、何て言ったら良いか…」

幸村くんは大病を患って、入院していたから。そういう子が良いと思うようになったのかもしれない。
でも、健康な人が、ある日突然、病に倒れるとか。
よくあるコトだろうし。実際、幸村くんもそうだったんじゃないだろうか。
そう考えると、健康な人。って言うのは相当、難しいコトかもしれない。

「そういえば、真田くんは?」

「真田か……、真田は『たるんどるッ!!』とか言うだけで、よう解らん」

「まあ、確かに真田くんなら、言いそうなセリフかも。恋愛に現を抜かす、とか。あんまり、想像出来ないし」

「もしそうなったら、お前がたるんどるって話しじゃな」

「…例えば、真田くんが三股とかして、とっかえひっかえとか……?
自分で言っておきながら、何だけど。想像つかないし、そんなの真田くんじゃないよね」

「ある意味、それはそれで尊敬に値するがのう」

確かに、それは言えるかもしれない。
表と裏の顔を、使い分けているってコトになるのだろうし。
しかも、誰にも気付かせず…。
それって、凄すぎる。
けど、さすがにそれは現実味がなさ過ぎる。

「お堅そうだけど、有り得そうかもって現実味があるのは…。柳生くんとか?」

「柳生か」

私の言葉に、仁王くんは頷いた。

「選ぶタイプは決まって、清楚で控え目、大人しい子やから騒ぎ立てられるコトもなく、誰にも気付かれん」

「ひと時の甘い夢を見せてくれる!! 的な?」

「そうじゃ」

「うわあ、キラリと光眼鏡の奥には、妖しい眼差しがかくされていた!!! とか。
想像したら、何だかそんな風に見えてきちゃうなあ」

だって、柳生くんの眼鏡は、ミラーコーティングだっけ?
そういうのが施されてて、目が見えない。
だから、隠された瞳というのが、どのようになっているのか解らない。
恐らく、それが魅力にも繋がるのだろうけど。
でもでも、柳生くんと仁王くんの二人は、ダブルスを組んだりして、テニス以外でも仲が良いし。
そういう要素が、全く無いなんて言えないと思う。
やっぱり、仁王くんの親友とか、一筋縄じゃあ務まらないだろうし…。
否、別に柳生くんが本当に、そんなコトをしているとは思っていないけれど。
あくまで、ココだけの話し。想像の域に過ぎない。

「がっかりしたか?」

「がっかり、っていうのは少し違うような気がするけど…」

仁王くんの問いに、うーん…と首を傾げる。

「私は柳生くんのコト、あんまり知らないし。つまり、本質を知らない訳で。
自分勝手な理想像を創り上げておきながら、イメージと違う!!
とか言ってがっかりするのは、本人からすれば、迷惑な話しだろうし。
だから、もし柳生くんがそういう人でも、がっかりしないよ!!」

力いっぱい否定すると、仁王くんは珍しくぽかんとした表情を浮かべた。

「…は、いい子じゃな」

「え? うん? ありがとう…?」

褒められた、のかな?
しみじみという風に、仁王くがそんな言葉を口にした。
よく解らないが、とりあえずお礼を言うと。
仁王くんは、何か企んでいる様な。独特な笑みを浮かべた。

「まあ、こんな話をしたってのは、俺とお前さんだけの秘密じゃ」

「秘密?」

「そう、秘密じゃ」

「秘密の共有なんて、ちょっとドキドキしちゃうね」

「そうじゃろう?」

そう言ってお互いに、笑い合った。






2010.10.24