テニスコートの側を通ると、当然ながら練習に励むテニス部の人達の姿があった。
その姿に足を留め、空を見上げた。
視界いっぱいに広がるのは、何処までも続く青空。
おまけに、曇一つ無い。

(こう暑いと、外の部活は大変だろうなあ。日射病や熱中症なんかも怖い)

テニス部だけでなく、気を付けているだろうけれど、そう思わずにはいられない。
熱中症は、外の限らず室内に居ても危険性はあるが。
夏だし、暑いのは仕方がないとしても。
日本の夏は、湿気も高く含んでいる。
時折、風が吹きはする物の、ムワーッとしていて生温い。
アスファルトの地面は、ゆらゆらと陽炎を作り出している。
極めつけは、近くの木に止まり合唱しているセミの声。
コレがより一層、暑さを感じさせている気がする。
テニスコートへ向き直り見ると、南くんの姿を見付けた。
部長である南くんは、部員に指示を出したり、指導をしたりと。
自分自身の練習以外にも、やるべきコトが沢山ある様で忙しなくしていた。

(部長ともなると、仕事なんかも多くて大変なんだろうなあ…)

ぼんやりと、そんなコトを考えていると。
そう言えば、南くんがテニスをしている姿を見るのは、初めてだったコトに気付く。
いつも教室で見ている表情とは、少し違う様な。
恐らくそれは、好きなテニスをしているからなのだろうと思う。
暑くて大変だろうが、ボールを追い掛け練習する南くんの姿は。
輝いているみたいで、とても格好良かった。
そのまま暫く、ボーっと眺めていると。
私の存在に気付いたのか、南くんが此方を振り返った。
そして目が合うと、南くんはにっこりと笑顔を浮かべた。
私も応える様に、笑みを返した。
すると千石くんが気付いたらしく、笑いながら南くんに近付き話しかけた。
それから千石くんの言葉に、南くんは少し怒った様な。
そんな表情に変わり、何事か言っている様だ。
残念ながら、私の居る場所からテニスコートまでは距離があり。
二人が何を話しているのかは、聞こえないし解らなかった。

(どうしたのかな?)

近付いてみれば良いのだろうが、それもどうだろうか。
どうしたモノかと、首を傾げると千石くんが私の方へと向き直り、ひらひらと手を振ってきた。
突然のコトに、ビックリし。思わず周囲を見回す。
私の周りには、他に誰も居らず。千石くんが手を振っている相手は、私なのだろうが。
若干、戸惑いを感じる。
千石くんは、南くんを通した友人…?
うーん…、どちらかと言うと知り合い程度で、特別仲が良い訳ではない。
だからと言って、全く知らない相手という訳でもないし。
無視するのは、気が引ける。
どうしようかと一瞬考え、躊躇いがちに手を振り返した。
そうすると、千石くんは再び南くんに何事か告げ。
その後、南くんも手を振って応えてくれた。
何となく、そんな南くんの行動に、私はビックリした。
暫くそのまま手を振り合い、南君は千石くんを促す様に背中を押し、練習に戻って行った。
その姿に、いつまでも此処に居たら邪魔になるだけだろうし。
踵を返し、本来の目的である校舎へと歩き出した。
途中、一度だけ振り返って見る。
そこには、私に気付く以前と同様、練習に励む南くんの姿があった。
何となくその姿は、向日葵みたいで。青空が似合う人だなと思った。
夏がとてもよく似合う人だなあ、と言う新たな認識に笑みが浮かんだ。






2010.08.12 加筆修正