「地味って言うな!! …全く千石のヤツ…」 何かとつけて、千石は俺や東方に地味だと言ってくる。 オマケに地味ーズ、なんて不本意極まりない呼び名まで付けられる始末。 俺(達)は地味じゃないし、テニスのプレイスタイルだって派手だ!! 「…南くん、地味ーズって呼ばれてるの?」 の言葉に、ハッと我に返る。 まさかに聞かれていたとは…。 「……ああ、不本意ながら、な」 正直、には知られたくなかった。 コレでもし、にまで地味などと言われたらショックだ。 否、はそんなコトを言うような人間じゃない。とは思うが。 「ふーん…、でも南くん地味じゃないのにね」 はあーっと思わず遠い目になっていた俺に届いたのは、そんな言葉だった。 何だ、聞き間違いじゃないよな? 「は、地味じゃないって思うのか…?」 「うん」 聞き返した俺に、ハッキリと肯定の言葉が返された。 普通のコトである筈なのに、思わず涙ぐみそうになる。 「千石くんが言うのは、部活内でのコトなのかな?」 「え…さあ、どうだろう。…でもアイツ、千石は俺の存在自体が地味とか言うからな……」 ふと思い返して、先程とは違う涙が滲みそうになった。 「それじゃあ、南くんは派手になりたいの?」 「うーん、どうだろう?」 地味だ地味だと言われはするが、そんな風に考えたコトはなかった。 というか俺自身は、自分が地味だとは思っていないわけだし。 「例えば…千石くんや亜久津くんみたいな感じとか?」 「…否、流石にそれは、ちょっとな…」 想像して、ゾッとする。 というより、そんな自分は想像出来ないし、あんな風になりたいとは思わない。 「でも私は、地味なのって好きだけどなぁ」 「?!」 「騒がず・目立たず・普通に生きるのがモットーだし」 「え…? あ、ああ。そういう意味か…」 否、別にガッカリなんかしていない。 「うん? って、私のモットーなんてどうでも良いよね。それ以前に南くんは地味なのが嫌なんだから、 こんなコト言われたら気分悪いよね。ゴメン…」 「いや、全然!! 気にしてないから!! というか俺も別に、地味が嫌いとかいうわけじゃないし!!」 しょんぼり肩を落とすに、必死で否定する。 にそんな表情をさせたいわけでもないし、ましてや見たいわけでもない。 だから、そんな顔をしないでくれ。そう思いながら、に畳み掛けた。 「…ホント?」 「うん、ホントホント!!」 「そっか、良かった」 安心したようには笑みを浮かべた。 その様子に俺もホッとする。 「南くんは地味なんかじゃないよ!! って私なんかに言われても説得力も嬉しくもないだろうけど」 「そ、そんなコトないぞ!!」 「そう?」 うんうんと、肯定するよう首を縦に何度も振る。 「きっと南くんは、自分から目立とう!って思わないだけなんだよ。 うん、だから…縁の下の力持ちって感じ」 「縁の下の力持ち?」 「そう、カッコイイよね!!」 「ッ?!」 こうしてまたは、俺に爆弾を投下してくれた。 嬉しくはあるが、こうした不意打ちは俺の心臓によくない。 心臓に悪いから止めてくれ。 そう思いつつも、火照った顔を隠すように俺は曖昧な笑みを返すのが精一杯だ。 「それにしても千石くんて、明るくて楽しい人だね」 「ん? ああ、でも明るすぎて逆に騒々しい時も多いけどな」 「ふふ、それはあるかもね」 「だろ?」 「うん、でもちょっと損な所もあるよね」 「損? 千石がか?」 の言葉に、面食らう。無駄に得するコトが多い千石。 どこら辺が損なのか、俺にはイマイチぴんとこない。 「だってほら、千石くんて、いつも笑顔で明るいし軽そうに見えたりするでしょう?」 「まあ実際、そんな感じのヤツでもあるからな」 「だから、ちょっと損してるよね」 「は?」 「えーと…、こういうキャラだ!って定着してる所があるでしょう?」 「ああ」 「本気で悔しいとか、泣きたいくらい哀しいとか。 真面目な話しをしてても、冗談だろうって流されたりしそうな感じがするから」 「…」 「そんな時でも、何でもない平気な振りして、いつもみたいに明るく笑って、演じてる所とか。 素直に本心を言えない雰囲気が、無意識の内に出来上がってそうだから。 千石くんて、実は損な役回りなんじゃないかなって」 の言葉は、俺にとってはまさに青天の霹靂。 そんな風に、千石のコトを考えたコトは無かったが、思い返してみるとの言う通りかもしれない。 千石の態度は、普段が普段なだけに。 否、実際に軽い所や、おちゃらけてる。それだけに、嘘か本当なのか解り難い。 半分以上は自業自得な気もするが、そんな感じだから気付かぬ内に、どうせまたいつものコトか。 なんて思っている節が、ある気がする。 千石だって、俺達と同じように悩んだり葛藤してるコトもある筈。 何も考えてないように見えるけど、そんなコトはないよな……。多分。 コレからは、もう少し千石のコトを広い心で見てやるべきなのかもしれない。 否、でもなぁ…。 今でも充分、そういう目で見てる気もするけどなぁ。うーん…。 「あ、でも南くんがいるから、そんなコトもないか」 云々と考え込んでいた俺に、の言葉が届く。 「…え、俺?」 思いがけない言葉に、驚く。 「うん、南くん部長さんだし。気遣いとか、ちゃんと部員みんなのコト考えて見てるだろうから。 あんな風に千石くんが接するのは、きっと南くんに甘えてるんだよ」 「そうかな…?」 「うん!! だからね、地味ーズとか言ったりしちゃうんだよ」 「…それは、やっぱり嬉しくないなぁ」 普段俺に、優しいとか、親切とか。気配り上手なんては言ってくるけれど。 俺なんかよりも、の方がずっと、何十倍も出来る人間だと思う。 にっこりと笑顔を俺に向けてくれる。 そんな彼女に、こうして何度も俺は落ちるのだ。 |
2010.04 加筆修正