、好きな人とかおらんの?」

突然よっちゃんが、そんなコトを聞いてきた。
私が四天宝寺へ転校してきて、早数ヶ月。
関東から関西来るのは、未知の領域に足を踏み入れるみたいで。
馴染めるかどうか、正直不安だった。
そんな不安を余所に、みんな優しく親切で、いい人達ばかりで安心した。
とはいえ、学校の校風は未だ理解の範疇を超えている所はあるけれど。
友人も出来たし、それなりに順調な学校生活を送っている。
日々の生活、馴染んで行けるかどうか。というコトばかり考えていた。
だから好きな人、なんて考えたコトもなかった。

「…いない、かなぁ」

「憧れてるー…、とかカッコイイーとか言う人は?」

「うーん、そんな人もいないかな。夢も希望もないし、ただぼんやりと日々を生き過ごしてるよ」

「辛気臭いな、もっとこう前向きなコト考えや」

別段、私とてネガティブ思考の人間ではない。
どちらかと言えば、ポジティブ寄りだ。

『人生成る様にしか成らない』

それが私の、モットーだ。
ただ、熱中出来るモノや、打ち込めるモノが見つからない為、無駄に毎日生活している様に思えるのだ。

「白石くんとか、カッコええやんか」

「確かに、白石くんはカッコイイと思うけど」

「せやろ? って何か不満そうやな」

「別に不満というわけじゃ…」

そうだ、不満に思える程、私は白石くんのコトを知らない。
私が知っている、白石くんの情報なんて精々。
二年でありながらテニス部の部長を務めている。
無駄のないイケメンで、バイブル等と呼ばれている。
その位なモノだ。
同じクラスなわけでもないし、接点もない。
だから、白石くんの人柄、どういう人なのか実際に知らない。
カッコイイと思うし、何だかんだ言って結局、人間第一印象顔が重要なポイントだとは思うが。
それだけで、好きだという感情にはならない。

「それなら、どういう人がタイプなん?」

「タイプ?」

「例えば、テニス部でいうたら誰?」

「…何でテニス部限定?」

「いろんな人種がおるやろ」

「人種って…、せめて人材とかさ」

言われて思い浮かぶのは、個性的な面々だ。
パーフェクト人間、白石蔵ノ介。
浪速のスピードスター、忍足謙也。
まるで修行僧のような、石田銀。
モノマネ王子、一氏ユウジ。
IQ200の天才、金色小春。
…こんな所だろうか?
若干、というか忍足くんは、何のこっちゃ? 感がしなくもないが。

「細かいコトは気にせんと、誰や誰!!」

「そうだなぁ、テニス部で言ったら、それはやっぱり決まってるでしょう」

「やっぱり?」

そうだ、テニス部限定で問われたら、一人しかいない。
彼を置いて、他にはいない。
うん。

「一氏くん」

「はあッ?! 何で一氏やねん!!!」

私が答えると、盛大に驚かれ、突っ込まれた。

「え、何が?」

「この流れ的に、そこは白石くんやろ!!!」

流れ的にって、そうなのか?
うーん…、イマイチ解らないが。
よっちゃんは白石くんのファンだし、当然私もそう答えるだろうと思っていた。
というコトだろうか?

「でもタイプで言ったら、私は一氏くんが好きだし」

うん、私は一氏くんが好きだ。

「…何処ら辺が?」

「まず顔が好みだし」

例えば、十人に聞けば十人全員が白石くんをカッコイイと言うだろう。
事実、私も白石くんはカッコイイと思う。
思うけれど、私の好みとか、好きな顔なのは一氏くんの方なのだ。
ああいう顔に、弱い。
一つ贅沢を言えば、アレで眼鏡を掛けていたら最高だと思う。
それだったら、中身云々言わず、一目惚れしていたに違いない。

「かおー? 顔なんて、爬虫類っぽいやんか」

「いやいやいや、普通にカッコイイよ!! てか爬虫類って…カメレオンとか?
あ、でもモノマネが凄い上手い所とか、カメレオンが周囲と同化する的な意味では似てるのかも?」

だがしかし、よっちゃんに言わせると、こうなるのか。
よっちゃんは、面食いの様だし。
私は一氏くんのコト、カッコイイと思うが。
万人受けする顔ではない、のか?
……まあ、考えた所で、自分が基準なのだから解る筈もないが。

「そういう意味違うし!!
ちゅーか一氏言うたら、いつも小春ぅ~小春ぅ~て、モーフォー言われてるんやで?!」

「別に男が男を好きになったらいけないなんて法律ないし。
今の時代、そんなコト言うのはナンセンスだよ!!
そこは個人の自由なわけだし、誰が誰を好きになろうともフリーダム」

「そういう問題違うやろ!! 好きな相手がフォーモーなんて有り得んやろッ!!!」

「別にタイプの話しであって、恋愛感情を抱いてるうわけじゃないし…」

「あんな、ベタベタ纏わりついてる様な一氏がええんか?!」

「そこはほら、それだけ一途ってコトだろうし。浮気は許さんとか、そこまで想われたら最高じゃない?」

何だか、凄い言われようだ。
でも例え、ホモだろうが良いではないか。
あそこまで公然と、誰かを好きだと想えるのは凄いコトだと思う。
寧ろ、尊敬に値するぐらいだと思うのだが。

「一氏くん、優しい人だし。ほら、階段から落ちた私を助けてくれたし」

偶然、あの場に居合わせただけかもしれないが。
避けずに、受け止めてくれようとした。
そんなコトをしたら、自分が怪我をするかもしれないのに。
一氏くんは、テニス部でレギュラーで。そんな大事な身であるにも関わらず、だ。

「助けた言うても、怪我したし眼鏡も壊してたやんか」

「あれは一氏くんの所為じゃなくて、私の運が悪かったというか…。
それに眼鏡の壊れた私に、家まで送ろうか? なんて声を掛けてくれるお気遣いの紳士だよ」

怪我もしたし、眼鏡も壊したが。重要なのは、そこではない。
理由はどうであれ、助けてくれたコトに変わりはないし。
そんな風に、相手を思い遣れる心を持っているコトだ。

「この一件以来、会えば挨拶等するし。私みたいな者に声掛けてくれるんだよ。
向けてくれる爽やかな笑顔は、キラキラ輝いてまるで王子様みたいだよ」

「…アンタ、それ本気で言ってるんか?」

「スミマセン、ちょっと誇張しました」

さすがに、一氏くんのバックに輝きは見えないし、花も飛んでいない。
逆にそれらが見えたら、迷わず病院へ行くべきだろう。

「まあエエわ。アンタがどんだけ一氏を好きか、よう解ったし。
そんならもう、一氏に会うのを楽しみに学校きたらエエやん」

「え? うーん…」

「嫌なんか?」

「別に、嫌じゃないけどさ」

その発想は、無かったなあ。
確かに、そういう風に考えれば何でもない学校生活にも潤い?
少なくとも、無駄な時間ではなくなる。

「それも、良いかもしれないね」

有意義と思える時間を過ごしていれば、その内、夢中になれるモノを見付けるコトが出来るかもしれない。
そう思うと、何だか楽しみな気持ちになった。






2010.04.26