ホントに、災難とは何処から降り掛かるか解らない。
身を持って実感した、次の日。
大概の嫌なコトは、一晩寝れば忘れてしまう。
それも、私の長所だと我ながら思う。
さすがに、清々しいとまでは言わなかいけれど。
昨日の出来事は、過去のコトと割り切った。
そして、いつもと変わらず登校してみると。
何処となく、昨日までと違う雰囲気に気が付いた。

(…何だろう?)

普段であれば、教室に着けば挨拶を交わしたりもする。
それが今日に限って、ない。
別段、特別に親しい友人が居る訳でもないが。
挨拶程度は、交わす。
そんなクラスメイト達も、何だか視線を合わさない様にしている。主に女子。
そう感じるのは、気の所為だろうか?

「よう、

「…宍戸」

疑問に思っていると、ふいに声を掛けられる。
宍戸亮は、現在クラスメイトである。
まあ、特別仲が良い訳でもないが。会話くらいはする。

「お前、跡部と付き合ってんだって?」

「…はあ?」

今、何て言った?
付き合う? 付き合うって言うのはアレか。
彼氏彼女の事情、そう言う意味か?
突然、何を言い出すのか。
冗談は、休み休み言って欲しいモノだ。
っていうか、昨日の延長かよ?! みたいな発言だ。
というか、何を持ってその様なコトを言ってくるのか。
宍戸なりの、冗談なのか。
否、しかし。宍戸は、こんな冗談を言う様な人間だっただろうか?
ちらりと、その表情を窺うも。
とても冗談を言っている様には見えず、寧ろ真顔の様な…。

「だって、スゲエ噂になってるぜ?」

「噂?」

「おう」

そう言われてしまえば、思い当たる節はある。
昨日の出来事だ。
思い出しただけでも、眉間に皺が寄るというのに。
けれど今、そんなコトを言っている場合ではない。
とりあえず、跡部景吾が自ら触れ回るなんてコトは有り得ない。
となれば、必然的に噂の元となるのは―――。

「あの女!!」

私を引っ叩き、振られた彼女しか居ない。
だとすれば、こんなコトをしている場合ではない。

「退いてッ!!」

私は宍戸を押し退け、ある場所。
跡部景吾の元へと向かった。
まずは教室へ行き、室内をぐるりと見回すも、その姿はなかった。
では何処に?
まだ教室に来ていないのだろうか。
だったら、次に向かうのは昇降口だ。















廊下を足早に歩いていると、目的の人物を見付けた。

「ちょっと、どうしてくれるの!!!」

急いで駆けより、詰め寄る。

「あーん? 何だ、いきなり」

「何だじゃなーいッ!! 噂だ、う・わ・さ!!」

「噂だぁ? 何だそりゃあ」

どうやら、跡部景吾も噂のコトは知らないらしい。
やはり、あの女の仕業か。

「だから、私達が付き合ってる、って噂になってるらしいじゃないの!!!」

「ああ? そんなの、勝手に言わしときゃ良いじゃねえか」

「よくなーいッ!! アンタが一言、アレは冗談だZE☆ とか言えば済むコトじゃないの」

「…俺様は、そんなキャラじゃねえ」

「そんなコトは、どうでも良いっつーの!! どうしてくれるのよ、責任取りなさい!!!」

「なら、噂が終息するまで、付き合ってる振りでもしとけよ」

「何故そうなる?!」

全く持って、解決策になってねえ!!
何処をどうしたら、そんな案が出てくるのか理解出来ない。

「何だ、俺様に不満でもあるってのか?」

眉を顰め、そんなコトを言ってくる始末。
どれだけ自分に、自信持ってんだよッ?!
普通の相手であれば、ナルシスト発言自重!!
と、突っ込んでやりたい所だが。
相手は、跡部景吾、そこは仕方が無い。
今更だし、言えるだけの人間なのだから。

「跡部景吾自身に、不満は無いけど。
それに付随してくるモノが、不満だし迷惑で余計なの!!」

そう、彼自身に私は別段、不満などない。
頭は良いし、運動神経も良い、顔も整ってるし、金持ちときたもんだ。
多少、というか自意識過剰な所はあるが。
でもまあ、それだけのモノを兼ね備えている訳だから。
とやかく言うのも、どうかと思う。
そんな訳だから、跡部景吾は兎に角もてる。
親衛隊まで居る位だ。
それも、普通に害のない人間から、過剰で好戦的? な人間まで多種多様。
つまり、外野が煩い。
抜け駆けするな、だの何だと。
そういう訳だから、この様な噂が広まろうモノなら、奴等が黙っている筈がない。
そんな、面倒な事態はご免だ。
若干、手遅れ感が否めないけれど。
それでもまだ、跡部景吾が撤回すれば、事態は収まる筈である。

「何や、お二人さん。朝からお熱いコトで」

一体誰だ、こんなKY発言をしてくる奴は?!
キッと睨みながら、視線をずらせば。
いつの間にか、跡部景吾の隣に、忍足がいた。

「冗談は、その眼鏡だけにしろよ☆」

「ぐはッ」

容赦なく忍足の鳩尾に、拳を叩きこんでやった。
見事に決まり、その場に蹲り噎せる忍足。
自業自得だ、アホったれとスルーした。
というか、忍足になど構っている場合ではない。

「放っておけば、そんな噂、その内に消えるだろ」

何処までも他人事、さして気に止めた風もなく。
跡部景吾は、そう言い残し教室へ歩き去ってしまった。
そりゃあまあ、他人事だろう。
実質的な被害に遭うとしたら、私の方なのだから。
嗚呼、昨日人を殴るのは良心が痛む。等と思ったが。
前言撤回、今直ぐ跡部景吾をボコッて埋めてやりたい。

「跡部の言う通りやろ、無視しとけばエエやんか」

いつの間にか復活した忍足が、跡部景吾の言葉に賛同した。

「…煩い」

「あだッ?!」

余計なコトを言う忍足に、今度は肘鉄を食らわせ沈めてやった。
嗚呼、何だってこんな。揃いも揃って、非常識人しかいないのだろうか。
私が一体、何をしたというのか。コレはどんな、試練なんだよ。
事態が沈静化するまで、だなんて…。
そんな日が、本当にくると思っているのだろうか?
もう少し、自分達が周りに与える影響というモノを、考えて欲しい。
迷惑・被害に遭うのは全て周囲なのだから。
あの跡部景吾に、他人を思い遣れ。等と、望む方が間違いなのだろうか。
…否、でも、人並みにそういう感情は、持ち合わせていると思いたいのだが…。
それにしても、どう考えたって、平穏無事に過ごせる訳が無いのは明白で。
コレからの学園生活を思うと、溜め息しか出なかった。






(2010.10.11)