私の名前は、
氷帝学園に通う、至極普通の一生徒にすぎない。
成績は中の中、運動は…あまり得意な方ではない。
見た目は、可も無く不可も無く。まあ、ごくごく平凡なのではないかと思う。
唯一、他の人達に勝るモノがあるとしたら。
ガッツとか、忍耐力。根性なんかは、かなりある方だと思う。
お金持ちの学校としても、氷帝学園は有名だが。
私の家庭の様に、一般人。一般庶民? そうした人達も、それなりに通っている。
そんな、何処からどう見ても普通。
平均的で、何処にでも居そうな人間である私。
それでも、今の生活に何ら不満は無く、満足している。
波風立つコトも無く、普通に過ごせるのは意外に難しいコトで。
案外と、倖せなコトなのだと思っている。
コレはそんな私に、ある日突然、降り掛った非日常の数々を綴った記録である。















その日、私は一人で中庭を歩いていた。
何かあった訳でもなく、散歩の様なモノだ。
特に目的もなく歩いていると、人の姿が目に入った。

(誰だろう?)

目を凝らすと、一人は女生徒。
もう一人は、跡部景吾の二人だった。
跡部景吾という人物は、氷帝学園を語る上で外すコトは出来ない人物である。
一年生の頃から生徒会長と、テニス部の部長を務めるなど。
その行動力も然るコトながら、何かと注目を集め。
話題の渦中に在る人間だった。
それだけに止まらず、容姿端麗・成績優秀・運動神経抜群。
オマケに家は、有数のお金持ちと来たもんだ。
全てを兼ね備えた、完璧人間。
それ程までな有名人で、学園内に知らない人は居ないであろう人物である。
勿論、私も知っている。
そして、私と彼との接点を強いて挙げるとするならば。
昨年、クラスが同じだったコトくらいだろうか。
その時は会話もしたし、基本的には俺様人間だが、話しが通じない訳でもなく。
意外と、普通に話しも出来る人だった。
友人、とまではいかないが。顔見知り程度の関係だろうか?

そんな有名人、跡部景吾が私から数メートル離れた距離に居る。
雰囲気から察するに、告白現場といった所だろうか。
何とも、間の悪い所に出くわしてしまったモノだ。
こういう場合、気付かれない内に、サッサと退散するに限る。
そう思った所で、私に背を向けていた女生徒が突然、此方を振り返った。

(げっ、もしかして、バレちゃったの?)

何だか厄介なコトだな、なんて思っていると。
彼女は私の方へと、ズンズンと近付いて着た。
話しは終わったのか、とか。振られちゃったのかな?
なんて呑気に思っている内にも、彼女との距離は徐々に縮み。
遂には、私の目の間に迫り。
そして、眼前まで来ると、ピタリと歩みを止めた。

(え、何?)

至近距離まで来ると、顔の判別も出来る。
しかしながら、彼女の顔も名前も私は知らず。
何故、私の前で立ち止まったのか意味が解らない。
盗み聞きをするな、とか。邪魔だから何処かへ行け。
なんてコトを、わざわざ言いにきたのだろうか?
内心、そんな疑問を抱いていると。
彼女は私の顔を、キッと睨みつけてきた。

「何で、アンタみたいなのとッ!!」

怒っている様な、苛立ちを含ませた声を上げ。
パシッと、乾いた音が響いた。
一瞬、何が起きたのか解らなくなる。

(え、え? 何事??)

そしてじわじわと痛む頬の感覚に、引っ叩かれたのだと気付く。
けれど、その理由が解らない。
見ず知らずの相手に、いきなり引っ叩かれるなんて。
訳が解らない私を残し、当事者である彼女は。
それ以上、何も言わずに走り去って行った。
私は唯、呆然と彼女を見送るコトしか出来なかった。
そしてこの場には、呆然と訳の解らない私と。
訳知り顔の、跡部景吾の二人だけが残された。






2010.10.08