もうスグ、跡部くんの誕生日だ。
だからどうした、と言われたそれまでだが。
問題なのは、誕生日を迎えるのが、普通の人ではなく、”あの”跡部くんという所だ。
それはもう学園中(特に女子)が、そわそわと浮き足立つ様な空気が漂い始める。
氷帝学園に入学して以来、毎年見てきたけれど。
本当に当日は凄いッ!!!!!
この一言に尽きる。
いっそのコト、学校行事にでもしてしまえば良いのに。
常々私は、本気で思っている。

『跡部景吾聖誕祭』とか。

絶対に受理される気がするのだが…。
あ、でもその場合。生徒会長である跡部くんが、書類を扱うわけで。
受理するとか、しないか。さすがに。
否、でも。うーん…、どうだろう?
あとバレンタインも凄いんだよね。
解る気はするけど。
例えば、廊下の両側に並んだ女子の間を、跡部くんが歩いて。
後ろに控えた人が、チョコを箱に入れて行くとか。
コレもちょっとした、恒例行事だし。
その位しても、良いんじゃないかな。とか思ったりもする。
もう生徒全員が、跡部くんのファンクラブとか、親衛隊と言っても過言ではないと思うしさ。
…って話が逸れた、とりあえず今は置いておくとして。
跡部くんの誕生日に、私も何か贈った方が良いのだろうか?
と、悩んでいたりする。
これまで私は、跡部くんにプレゼントを渡したコトはない。
第一、何の接点もなかったし。
何より、見ず知らずの人間に物を贈られても困る…というか迷惑だろうし。
仮に私が、そんなコトされたら迷惑、というよりは不気味というか躊躇う。
小さい頃

『知らない人から、物を貰ってはいけない』

そう教えられたし。
でもまあ、跡部くんクラスになったら、そんなコトは当たり前なのかもしれないが。
それは兎も角、しかしながら今年は昨年までとは事情が違う。
一応、クラスメイト。
否、恐れ多いが友人に昇格したのだから。
しかし、だ。
プレゼントを渡すとして、一体何を贈れば良いのか。
私自身、友人にプレゼントしたり。勿論その逆も、殆どしたコトがない。
あまりそうしたコトに興味が薄いというか、習慣がないというか。
小さい頃はまだしも、小学校の3.4年生頃?
その辺りから、家族が祝ってくれる。とかもなくなったし。
おめでとう、程度は言われるけれど。
プレゼントとか、くれないし。まあ、別にそれは良いんだけど。
誕生日以外でも、例えばクリスマスやお正月とか。
世間的には、そういった行事とかに、疎い家なのかな。
あまり、拘らない傾向にあるというか。
この日だから、そうしなきゃいけない。っていう概念が無い。
だから結構、世間が騒ぐ様な行事もスルー気味に育ってきた。
そんな状態な訳で、何を贈るべきか皆目見当がつかない。
尚且つ、跡部くんは男の人だ。
そこも悩む要因の一つだったりする。
いっそのコト、昨年まで同様何も贈らない。という選択肢もある。
が、それはそれで何か言われそうだし。私自身も、気が引ける。
それに、私の誕生日にプレゼントを貰った訳だし。
あの時は、本当にビックリした。
まさか私が言ったコトを覚えているとは思わなかった。
何より、やるコトのスケールが違う。
やっぱり跡部くんは、凄い人だなー。と改めて実感して、感動した。
その時を思い出し、ちょっぴり感慨に耽っていると、今更ながら、大変重要な事実に思い至った。
跡部くんは、お金持ちだ。それも超の付く。
つまりそれは、安っぽいモノなど贈れないというコトではないか。
……嗚呼、盲点だった!!!
というコトは、ブランド品の類とかになるのだろうか?
無理無理無理!! 絶対無理だ!!!
我が家は一般家庭、庶民に過ぎない。
何より、お小遣いなど高が知れている。
物欲が然程ないから、ある程度の纏まった額はあるが。
ブランド品を買える程、大金がある訳ではない。
まあ、ブランド品だってピンキリだろうけど。
………でも、跡部くんのコトだから、そんなモノ腐るほど持っていそうだしな。
たくさん持っている(であろう)モノを贈るのは、芸が無い気がするし。
断じて、言い訳ではない。
うん、絶対…違う……。
そういう訳で、プレゼント候補は一から考え直さなくてはいけない。
何が良いのだろうか??
貰っても迷惑じゃなく、且つ実用的な物とかだろうか。
実用的か…。
ノートやボールペン、シャーペンの芯とか?
確かに実用的ではあるけど、プレゼントとしてどうなのだろうか。
困りはしないけど。うん、さすがに無いよね。
本当に、どうしよう。
皆と同じ様な、似た物にならなくて。
私にしか、贈れない物。
そんなモノが早々、都合良くある筈もない。
もう、いっそのコト手作りとか?
……手作り? そうか、手作りか。
だったら一つ、趣味であるとはいえ、自信を持って渡せるモノがある。
そうと決まれば、早速買い物に行かなくては。
財布を掴んで、目的の店に走った。



















そして迎えた、跡部くんの誕生日当日。
想像通り、否、それ以上に凄かった。
まあ、あと数ヶ月もすれば、卒業してしまう訳だし。
コレで行くと、バレンタインや卒業式なんかも、凄まじいんだろうなー…。とぼんやり思った。
そんな感じで、私も跡部くんにプレゼントを渡そうと思うも、如何せん人が絶えず隙が無い。
どうしたモノかと思っていた私は現在、生徒会室に居る。
WHY? 何故??
理由は簡単、廊下を歩いていたら、跡部くんに引き込まれたからだ。

「相変わらず、凄いね」

「…まあな」

返事をした跡部くんは、若干疲れている風だった。
まあ、あれだけの人間が引っ切り無しに訪れれば、さすがの跡部くんも辟易するだろう。

「それで」

「うん?」

「お前からは、無いのか?」

「勿論あるよ!!」

潰れて壊れたりしない様、慎重に鞄の中に入れてきた。

「はい、お誕生日おめでとう!!」

そうして手渡したのは、青いリボンを付けた一輪の薔薇。

「…どうしたんだ、コレ?」

「何を贈れば良いか、物凄く悩んだんだけど。跡部くんは、あらゆるモノを手にしてると思うし。
だから私ならでは、というか。私しか出来ないモノが良いかなと思って。
手作りしたの、コレは樹脂粘土で色とかも、半永久的に落ちないという代物で。
自分で言うのも何だけど、なかなか上手く出来てるでしょう?」

跡部くんに渡したのは、蒼い薔薇の花。
さすがに、花束までは出来ず一輪ではあるが。

「百合が似合うとか言っておきながら、薔薇なのかよ」

うッ、痛い所を付かれる。

「否、そこはね、ほら。私の誕生日に貰ったから、同じにするのもな、って思って」

「何で、青なんだ?」

「イメージカラー?」

「…疑問形かよ」

「いやいやほら、蒼い薔薇は未だ世に流通してないし。
花言葉とか、好きに設定出来るよ!!」

「意味が解んねえよ…」

「こっちの方が、跡部くんには百合より似合うなって」

氷帝学園の帝王→氷帝学園→氷→寒色系→青。
なんて連想からというコトは、黙っておこうと思う。
まあ、それだけではなく。跡部くんの目。
目の色は、キレイな青みがかった色をしている。
だから青・蒼かな?
そういう訳もあるんだけど。
…何か、後付けっぽく聞こえそうだから、コレも言わない。

「まあ良い、ならお前が花言葉付けろ」

「ええッ、私が考えるの?!」

「お前が言い出したコトだろ?」

「それはまあ。ええーっと、うーん…跡部くんにちなんでる様な花言葉?
唯我独尊、天下無双、傍若無人とか…」

「おい、喧嘩売ってんのか?」

「いやいやいや!! 決してそんなコトは無いで御座いますですよ!!!
あ、コレはどう?!」

「何だよ」

跡部くんに、ぴったりの言葉。
何だか沢山あり過ぎて、逆にぴったり合うモノが浮かばない。
寧ろ、私の今の現状?
贈る側の、私の気持ちになってしまうけれど。

「私は貴方の虜です!!」

コレだろう。これ程、ぴったりな言葉は無い。
この一言に尽きる。

「はッ、悪くねえ」

そう言って跡部くんは、満足そうな笑みを浮かべ頷いた。
喜んで貰えた様で、何よりだ。






青薔薇の花言葉あるじゃん、なんてツッコミはしちゃダメですよ。
青でなく、蒼ってコトで一つスルーしてやって下さい…(苦笑

ちなみに青薔薇、「神の祝福」「奇跡」「夢叶う」
等と言う花言葉があるらしいです。
花言葉事典様より 
http://www.hanakotoba.name/

2010.10.04 加筆修正