怪我の一件があってから、跡部くんと話しをするようになった。 それがなければ、今も会話はなく、この先もなかったかもしれない。 そう考えると、階段から落ちるもんだなー。なんて思ったりもする。 呆れられるだろうから、跡部くんには言わないけど。 「跡部くんって、華があるよね」 前々から思っていたし、今更しみじみと言うコトでもないが。 人を惹き付ける雰囲気? 相手を魅了するオーラ? カリスマ性とか、生まれ持っての資質? そうした物を、併せ持ってるわけで。 総じて、こうしたコトに繋がるのだろうが。 何となく思ったので、口にしてみた。 「あーん? 何、当たり前のコト言ってんだよ」 「おおッ、即答! 少しは否定とかしないの?」 「事実なんだから仕方ないだろう、寧ろ否定した方が嫌味だろうが」 「確かに。そういう所が、跡部くんが跡部くんたる所以なんだろうなぁ」 「何だそれ」 褒められて、サラッとそれを肯定する所とか。 いつでも、自信に満ち溢れてる所とか。 謙遜するコトも、美徳ではあるかもしれないけれど。 全てを兼ね備えた人がしても、逆に嫌味にしか聞こえないわけで。 肯定してくれた方が、いっそ清々しくて気持ちがいい? 「兎に角、華があるし、花も似合うよねって話しですよ」 華があるから、花が似合うのか。 否、跡部くんだからこそだろう。 というか、跡部くんだから。っていう言葉は、それだけで効力がある。 大概のモノは許されるし、納得してしまう。 言わば、免罪符の様だ。 そういうコト全部ひっくるめて、跡部くんは凄いんだなと改めて思う。 「定番だけど、薔薇の花とか似合いそう。あー、ダメダメ。やっぱり、薔薇の花はダメだよ」 「何でだよ?」 「だって、薔薇は榊先生と被っちゃうから」 「…別に被ったって、問題無いだろ?」 「年功序列? ともかく榊先生が薔薇だから、跡部くんは他の花ね」 「まあ、何でも良いけどよ。他のヤツ等にも、そういうイメージあるのか?」 「他の人?」 「そうだな、例えば忍足とか」 忍足くんか…。 何ていうかこう、妖しい雰囲気? 紫色とか似合いそうだな。 それでいて、和テイストな感じで。 「…菖蒲、かな?」 他の人達は、跡部くんに言われるまで考えたコトがなかったけれど。 でも言われてみれば、レギュラー陣は皆華がある人達揃いだ。 何と言っても、ホスト集団なんて異名があるくらいなわけで。 明確な理由とかは置いておくとして、パッと浮かんだイメージとしては。 「他の人達はね…、まずは宍戸くん。ガーベラかな。あ、向日葵なんかも合うかも。 向日くんは、躑躅や蓮華とかかな? そういえば躑躅や蓮華って蜜が美味しいんだよね。 芥川くんはね、ふわふわして柔らかそうな感じの髪とかからして、蒲公英。 そうそう、蒲公英とか菜の花は、お浸しにすると美味しいよね」 「…腹減ってるのか?」 「え? 別にそういうわけじゃないけど」 何となく食べるコトが出来るのを思い出した、というだけで。 ああ、でも、跡部くんはこうしたモノは口にしないか。 あと残っているのは、二年生の三人。 「樺地くんは、チューリップとか? 何か春の花なイメージかな。 鳳くんは、西洋種って感じがするな。こう王子様っぽい感じ? ダリアとか? 日吉くんは逆に、和が強いかな。ピシッと凛と真っすぐ、みたいな感じ。菊かな」 パッと浮かんだにしては皆、なかなか合ってるのではないだろうか。 うんうんと、納得し一人頷く。 「それで結局、俺のイメージは何なんだよ」 「うーん、牡丹とか? あ、ラフレシアとかは??」 「オイ、何処ら辺がイメージなんだ」 「ええと、希少な所とか」 「……」 物凄く不満そうな顔をされてしまった。 うん、まあ確かに。ラフレシアは、ないか。 というか、ちょっとした冗談でもあったんだけど。 跡部くんの視線が痛い。 「あ、百合! 百合なんてどう!!! 潔く凛としてる感じとか。 私はね、鬼百合とか好きなんだよね。あとカサブランカ! でも、一本が高いよね。薔薇の花束も良いけど、カサブランカの花束なんか贈られたら落ちるね!!」 「話しが逸れてないか?」 「いやいや、そんなコトないよ!! 跡部くんに似合う花は、たくさんあると思うけど。百合、コレに決定!!! 同じ百合の花じゃないけど、威厳・華麗・荘厳・甘美・富と誇り・壮大な美・清浄と上品とか花言葉あるし。 ぴったりな感じでしょう?」 跡部くんの言う通り、後半は若干、私情が入ってしまったが。 まあ、その辺は大目に見て欲しい。 百合の花束を持った跡部くん。 凄く絵になりそうだ。 慌てて否定したこの答には、跡部くんも。 「まあ、悪くねえ」 と満更でも無さそうな、そんな返事をしてくれた。 そんな話しをして、暫くした頃。 何の気なしに私が言ったコトを、跡部くんは覚えていてくれたらしく。 なんと私の誕生日に、カサブランカの花束をくれた!!! 驚いて跡部くんを見ると、独特の不適な笑みを浮かべて。 「落ちたかよ?」 と言ってきた。 何で私の誕生日を知ってるの、とか。 あんな些細な話しを、覚えていてくれたコトに感動したりとか。 跡部くんの、やるコト成すコト全てが様になっていて。 勿論、カサブランカの花束を持った跡部くんは、物凄く絵になってたし、カッコ良かった。 ホントにもう、凄いなんて言葉じゃ言い表せない。 さすが、キングなんて呼ばれているだけあって、スケールが違う。 「もうコレ以上、落ちようがないよ!!!」 そう言って私は、満面の笑みで返した。 |
2010.04.30 加筆修正