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この間の席替えで、跡部くんの隣になった。 席は窓際の一番後ろ。 後方の席は、何処も人気があるから、この席を獲得出来た私は、かなりクジ運が良いのだろう。 尚且つ隣には、あの跡部くんなわけだ。 ラッキーと思うと同時に、隣に跡部くんが居ると思うと、緊張する。 何というか、キレイな人や、あれだけ有名人なわけで。 そうした人を目の前にすると、慣れていない所為もあるだろうけど、ドキドキしてしまう。 ちょっと心臓に悪いな、とか。その内、何か発作でも起こして倒れたりしないか心配に思える。 隣の席になって、というか。同じクラスになってから、会話らしい会話をしたコトも未だに無いのに。 いつか、会話をする機会が出来たらどうなるんだろうか。 全く想像もつかない。 この席は、非常に良い場所である。 しかしながらこの時期、ぽかぽかと暖かい日差しに気候。 授業中、特にお昼後の5時間目当たりは、とてつもない睡魔に見舞われるのも事実で。 非常に辛い。 辛いけれども、跡部くんが隣の席にいるのに眠ってしまうのは勿体無い、言語道断。 その思いを胸に、頑張って授業を受けている。 物凄く不純な動機で、先生スミマセン。 でも一応、話しは聞いているので大目に見て下さいと謝罪しつつ。 けれどこの間、自習の時間にウッカリ居眠りをしてしまった。 うつらうつらと目蕩んでいると、がつんと頭が窓枠にぶつかった。 その衝撃で、目が覚める。 自習中とはいえ、気を抜き過ぎだ。 それからはたと気付き、辺りを見回す。 今の間抜けな姿を見られていたら、恥ずかしすぎる。 席を移動して友人と話している人、静かに課題をこなしている人。 チラリと、隣の跡部くんを伺うと、本に視線を落としていた。 誰にも見られていなかったようで、此方を見ている人はいなかった。 ほっとして、小さく息を吐く。 机ならまだしも、窓枠なんて有り得ない。 今後は注意しなければと、気合を入れた。 まあ大体、こんな風に私は日々を過ごしているのだけど。 折角、跡部くんの隣にまでなれたのだから、何かしなければ損だなと思い至った。 考えた末に私は、跡部くん観察記録を付けるコトにした。 そういっても、別段たいしたモノではなく。 その日、何をしていた。とか、どんなコトを喋っていた。とか。 こうしたモノを書き綴った、日記みたいなモノだ。 しかしふと我に返ってみると、ちょっと危ないヤツ? ストーカーっぽい?? いや、いやいやいや。 後をつけたり、電話を掛けたり。そうしたコトをしているわけではないし。 ギリギリセーフ? うん、まあこの際、細かい(?)コトには目を瞑ろう精神で続けている。 観察を始めてから最近、解ったコトは「バーカ」とか「あーん?」なんかが口癖らしい。 後は休み時間、跡部くんは本を読んでいたりしていて、席に居るコトが多い。 たまに席を外すコトもあるけれど。まあ、跡部くんも人間なわけで、トイレ等にも行くだろうし。 後はテニス部の面々が会いにくるコトなんかもある。 跡部くんの場合、自ら出向いて行くのは珍しいというか、イメージが沸かないというか。 悪い意味ではなく、そんなコトをさせるのは恐れ多いというか…。 今も丁度、忍足くんと向日くんの2人が、何やら跡部くんを訪ねてきていた。 隣の席に私は居るわけで、意図せずとも会話の内容が聞こえててしまう。 他人に聞かれて困る内容ならば、余所へ場所を移すだろうし。 たいしたモノではないのだろうけど、なるべく無心に手元の本に集中する。 けれど、気が漫ろになってしまうのは仕方ない。 ので、見逃して下さいと、心の中で言い訳しつつ謝罪する。 聞こえた会話の内容は、部活のコトらしかった。 ココ最近の観察の成果か、もうスグ例の言葉が跡部くんの口から出るだろうな。 (あ、そろそろ!) 「あーん?」 (ッ?!) 私の思ったタイミングと、跡部くんの言葉がピッタリ重なった。 その事実に、思わず吹き出しそうになる。 (こ、堪えないと!! 隣に跡部くん達がいるんだから!!!) そう思う心とは裏腹に、身体が小刻みに震えてしまう。 (ダメだ、もう無理ッ!!!) 早々に判断した私は、ガタンと立ち上がり俯き加減に急いで教室を出た。 跡部くん達が、此方を見た気がしたけれど、それに構ってる余裕はなかった。 というか、応えても理由が理由なだけに、気まず過ぎる。 そうして私は、笑える場所を求めて、とりあえずトイレに入った。 個室の鍵を閉め、ハンカチを口に当て、水を流し精一杯声を噛み殺しながら笑った。 お陰で腹筋が、かなり痛くなった。 何とか笑いが引いたのは、チャイムが鳴るギリギリの時間。 そして、来た時と同様に、慌てて教室へ戻った。 当然の様に、既に忍足くん達の姿はなかったが、跡部くんは居る。 席に着いてからも暫く、跡部くんの視線を隣から、ひしひしと感じたが。 私は気付かぬ振りを頑なに貫き通し、決して隣を見るコトはしなかった。 跡部くんを無視する形になるのは、非常に心苦しかったが。説明出来ない以上、どうしようもない。 (ごめんなさい、跡部くん!!) 心の中で謝罪しつつ、頑張った私を、誰か褒めて欲しい。 そんなコトがあった日の放課後。 急な委員会の仕事で、思いの他帰るのが遅くなった。 こうなるなら、荷物を持って行くべきだったと教室に戻る道すがら後悔する。 まあ、早く帰らなければいけない用事や予定はないから、そこまでも時間を気にするコトはないけれど。 唯、手間という意味で、時間の無駄だなというくらいで。 もうスグ、教室という時、話し声がするのに気が付いた。 (何だろう?) 既に下校時間も過ぎ、殆どの生徒は残っておらず、辺りは静かだ。 なるべく音を立てぬよう、注意深く近付く。 (?!) そうして、耳に届いた内容に、回れ右をし慌てて元の道を戻る。 「うわあ…、告白とか余所でやってよ…」 思わず、そんな言葉が零れた。 立ち聞きするわけにもいかないし、何となくあの場所から離れた。 確かに、人気もないし。告白するには、絶好のチャンスだったのかもしれないけれど。 あそこを通らなければ、教室に辿り着かない。 それはつまり、荷物を取りに行けないわけで、帰れないコトを指している。 矢張り、荷物を置いたまま委員会へ向かったのは失敗だった。 (何で持って行かなかった、数時間前の私!!!) 己の行動を、罵る他なかった。 近すぎても聞こえてしまうし、だからといって今から時間を潰す為に何処かへ行く気力もない。 とりあえず、適度な距離を取り、階段に腰を下ろした。 そうして5分か10分。 何もせず、ただボーっと時間が過ぎるのを待つというのは、いつも以上に時の流れがゆっくり感じられる。 いい加減、終わっただろうかと、教室へ戻ろうと思い立ち上がる。 運の悪いコトというのは、重なるモノらしく。 バランスを崩し、足を滑らせた。 「うわあーッ…」 どうするコトも出来ず、重力に従い私は階段から落ちた。 「痛ーッ……、もう、有り得ないし…」 ホントに、なんてついていないのだろうか。 「おい」 ぶつぶつ思っていると、声を掛けられた。 (え、嘘。今の見られていたの?! 最悪!!!) そう思いながらも、仕方なく顔を上げる。 「…?」 何故だろう、違和感を覚える。 そういえば何だか、視界がぼやけている。 「……め、眼鏡!!」 顔に手をやり、眼鏡が無いコトに気付く。 階段から落ちた時、眼鏡も外れてしまったらしい。 というか、そんなに衝撃があったというコトなのか? まさか、壊れるなんてコトはないだろうな。 不安に思いながらも、きょろきょろと辺りを探すと、少し離れた場所に落ちていた。 「あった!!!」 「…おい」 急いで近寄り、眼鏡を手に取る。 「良かったー…、壊れてない」 ざっと確認してみると、フレームも歪んでいないし、レンズに皹なども入っていない。 安心して、ホッと息を吐く。 「おい、苗字名前!!!」 「は、はい?!」 突然、名前を呼ばれビックリする。 そういえば先程、誰かに声を掛けられたのを思い出す。 眼鏡のコトで頭がいっぱいで、スッカリ忘れていた。 「…あ、跡部くん……」 慌てて眼鏡を掛け直し、見上げた先に居たのは。 まさかの跡部景吾、その人だった。 (跡部くんを無視するなんて、本日二度目だし!! 私はなんてコトを?! ど、どどどどうしよう!!!) 午前中にもあっただけに、ザーッと血の気が引くような、余計にあわあわと動揺する。 そんな私を余所に 「ったく、眼鏡より自分の心配しろよ」 呆れた様に、跡部くんがそう言った。 早く、何か返さなくては、それで頭がいっぱいになる。 「いや、あの。眼鏡壊れたらスグ直らないし、予備とかもないから授業や日常生活に支障を来たすし」 とりあえず、纏まらない頭で、思ったコトを捲くし立てる様に口にする。 嗚呼、でもまさかあんな失態を、晒す羽目になるなんて。 ホントに今日は、最悪の運勢だ。 コレも全て、告白劇なんか繰り広げていた所為だ!! 否、そもそも荷物を教室に置いてきた私が悪いのか? 何にせよ、落ち込む。 ひっそり凹む私を余所に「ほら、いい加減に立てよ」と手が差し伸べられる。 勿論、その手は跡部くんのモノで。 (お、おおおお恐れ多いッ!!! 私なんかが跡部くんの、て、ててて手を掴んでも良いのだろうか?!) 混乱と緊張。 いろんな感情が織り交ざりながらも、無視する方が失礼に当たるだろうと震える手を、恐る恐る伸ばす。 「ッ?!」 すると存外、強い力で引っ張り上げられる。 そしてそのまま、跡部くんに抱き付く様な形になってしまう。 (あわわわわわ…、抱き付いちゃったよ!!! というか、跡部くんって意外と力があるんだなぁー。否、男子なんだから、これくらい普通? それに胸板とか引き締まってて、まあテニスしてるわけだから。鍛えてるのは当然かもしれないけど…。 その上、ウエストもこうキュッと細くて羨ましいなー…。ああ、しかもいい香りが。 何か、香水とか付けてるのかな?) 「…怪我しなかったか?」 ボーっとしている私の耳に、随分と近くから聞こえた声。 我に返ると、跡部くんに抱き付いたままであるコトを思い出し。 「だ、だいじょうぶ大丈夫!! 打った所は少し痛かったけど、今はもう何処も痛くないし」 慌てて跡部君から、身体を離す。 今日は、最悪の日かと思ったけど、案外いい日なのかもしれない。 まあ、数々の失態を考えると微妙な所ではあるけれど。 でもそれを差し引いても、跡部くんと会話して、事故とはいえ手を差し伸べられ。 その上ちゃっかり抱き付いてしまったわけだし。 スペシャルディもいい所だろう。 欲を言えば、初めての会話がこんなのだったのは、少しどうかと思わなくもないけど。 けれど逆を言えば、こんなコトが無ければ会話する機会も無かっただろうし。 この後、教室に向かっていた跡部くんと一緒に、教室へ向かった。 しかも途中まで、一緒に帰った!!(校門を出る前に分かれたけれど。) 我が人生に一遍の悔いなし!!!!! 本気で、そう思った。 後日。 実は怪我をしていて、しかも足の靭帯を伸ばしていたとか。 私の怪我は、何気に大ごとだった。 痛みも全然なくて、ただ腫れがなかなか引かないと思い病院に行ったらそう告げられ、私が一番驚いた。 跡部くんにそれを話したら「そんなと所まで、鈍感なのか」と呆れられた。 でも、この一連の騒動が元で、跡部くんと会話をするようになった私からしてみると。 「怪我の功名?」 なんて風に思ったりもする。 そう言うと「バーカ」と返された。 跡部くんの言葉に、私はただ笑った。 |
2010.04 加筆修正