昼休み。
今日は、図書館の仕事があるコトを思い出した。
そして私は、慌てて図書室へと向かった。





仕事をすべく、カウンター内に入り腰を下ろす。
走ってきた為、若干上がった息を整えるため、大きく一度、深呼吸をする。
一息吐いて、ぐるりと室内を見回す。
広い室内は閑散とし、利用者も殆どおらず、たいした仕事もなさそうだった。
特別するコトもなく、貸し出しカードを整えながら、今度はじっくりと室内に目を向ける。
すると、ある一角で目が留まった。

(跡部くんだ)

そこには、クラスメイトである、跡部くんがいた。

(何だか珍しいなぁ…)

跡部くんと本、という組み合わせ自体は珍しくない。
寧ろ、似合っていると思う。
唯、図書館に居るコトに驚いた。
全く利用しないわけではないだろうが、こうして見掛けたのは初めてだった。
尤も、私が当番でない日に利用している可能性だってあるが。
そして跡部くんの周りには、同じテニス部の正レギュラーの面々の姿もあった。

(確か…、忍足くんに宍戸くんと……。あと、向日くんだ!)

テニス部の、しかも正レギュラー陣は特に目立つ。
というよりも、テニス部自体が目立つ存在でもあるけれど。
別名、ホスト集団なんて称されているくらいだ。
確かに部長である跡部くんを筆頭に、美形な人達が揃っていると思う。
尚且つ、監督があの榊先生だ。
音楽教師で、テニス部の監督とか。イメージ的に、結び付かない。
教師も、道楽でしているのではないか。なんて囁かれていたりもする。
確かに…、と頷けるだけに。榊先生の存在自体が、謎に満ち溢れている。
とりあえず今は、榊先生のコトは置いておくとして。
彼等が居るコトにより、図書館へ来ている主に女生徒がちらちらと横目で、そちらへと視線を向けている。
けれど一概に、それだけが全ての原因というわけでもない。

(うーん…、向日くんは、少し大きな声を出しすぎな気がする…)

他の利用者達が視線を向けているのは、恐らくそのコトも含まれていると思う。
けれど哀しい哉、当の本人は全く気付いていないらしい。
というよりも、自覚が無いと言ったほうが正しいかもしれない。

(注意、した方が良いよね…。でもなぁ、話したコトないし。何だお前、みたいに思われてもな。
否、別に思われても構わないけど。私は一応、図書委員なわけだし…)

そう思いつつも、なかなか行動に移せない。
向日くんを見つめる視線を一瞬、何ともなしに跡部くんの方へと向けた。

(あ)

瞬間、目が合った。ような気がした。
それは時間にしたら、一秒にも満たない程で。
スグに跡部くんは、元の方へ向き直ってしまった。

(…気の所為、だよね? ……あれ?)

そのまま、様子を見ていると。
跡部くんが向日くんに、何事か話している姿が映った。
それからスグに、向日くんは大人しくなった。

(気付いて、注意してくれたのかな? でも単に、跡部くんも騒がしいと思ってただけかもしれないし…)

「あの、スミマセン」
「! はい」

首を傾げ悩んでいると、ふいに声を掛けられる。
我に返り、慌てて視線をカウンターへと戻すと、本を手にした生徒の姿。
そうして、本来すべき仕事へと戻る。
その後、数名の返却・貸し出し手続きや、新刊本の予約など仕事が続いた。
一段落して、跡部くん達が居た場所を見ると、既にそこには誰も居なくなっていた。
いつの間に居なくなったのか、気付かなかったが。
恐らく立て続けに人が来た辺りに、教室へと戻って行ったのだろう。
再び暇になり、先程の出来事を思い返す。
跡部くんが、どういうつもりで向日くんに声を掛けたのかは解らない。
けれど、私の変わりに注意してくれたのは確かだった。
跡部くんに直接、お礼を述べるコトは出来そうにない私は。
心の中で、盛大に感謝の言葉を繰り返した。

(やっぱり跡部くんは、いい人なんだなー)

そんな風に思った、昼休みの出来事。






2010.04 加筆修正