この氷帝学園に通っていて彼、跡部景吾くんの名前・顔を知らない人間は存在しないと思う。 いろんな意味で、跡部くんは有名人なのだ。 そんな有名人である跡部くんと、今年初めて同じクラスになった。 コレだけ生徒数が多いと、同じクラスになる確率自体が低くて。 廊下ですれ違うコトすら、極稀な出来事だったりする。 遠目にでも跡部くんの姿を見るコトが出来た日は、物凄く運の良い日。ラッキーディだ。 そんな風に私は、勝手に思っていた。 恋愛感情とか、好意を抱いているわけではないけれど。 跡部くんは、キレイな人だ。 男の人に対して、キレイというのは褒め言葉かどうか、少し迷う所でもあるけれど。 でも、すれ違った後に、思わず立ち止まり振り返ってしまう様な人間なのだ。 キレイな人というのは、何もせずとも絵になるし、存在するだけで価値があると私は思っている。 だけど跡部くんは、顔も勿論のコト、頭も良いし、運動神経までも良い。 その上、有数のお金持ちなんて。欠点が見つからない。 まさに完璧といえる。 世の中って、不公平だなと跡部くんを見ていると思わずにはいられない。 でも跡部くんだし、そう思うと仕方ないというか、納得してしまう所があるから不思議だ。 跡部マジックとでもいうべきか。 と、まあこんな凄い跡部くんと、同じクラスになったのだから。 コレを喜ばずして、何を喜べというのか!! 年齢問わず、女の人はキレイなモノが好きだ。 それは景色だったり、宝石や人でも変わらない。 こうしたモノを見るのは、目の保養でもあるし、倖せなコトだと思う。 だからといって、不躾にじっくりとジロジロ見るわけにはいかないが。 クラスメイトの特権は、今までみたいに、会えるかどうか解らないのではなく。 学校に行けば、必ず会えるコトにある。 だからこの一年間は、毎日がラッキーディだ!!! なんて考えは、安直で単純、実に現金かもしれないけれど。 何にせよ、学校へ来る楽しみが出来たコトに、変わりない。 部活の練習を見学に行く女生徒の数は多い。 正直、試合は兎も角として、練習姿に黄色い声援を送るのはどうなのかなと思わなくもないが。 とりあえず、私は見に行ったコトはない。 寧ろ、怖くて近寄りたくないというのが本音かもしれないけれど。 あの集団を掻き分けて中に入っていくなど到底無理な話しだし。 つまり、行った所で見えるわけがないのだ。 だから、交友棟から双眼鏡などでテニスコートを見た方が、よっぽど良さそうだと私は思っている。 まあ実際に、行動に移したコトはないから、真実の程は解らない。 何よりそんなコトしたら、不審者っぽいし。目立つような行動は避けたい。 ひっそり・こっそり・目立たずをポリシーに、一目見れれば良い日と思っているわけだし。 そんな感じで、いつもは賑やかなテニスコート近く。 今日はやけに静かだった。 「?」 何故だろうと首を傾げ、そういえば今日は水曜日。 確か、練習はオフの日だった筈。 成る程、どうりでこの静けさなのかと納得する。 (もう皆、帰ったのかな?) 時間的には、早くもなく遅くもない。何とも微妙な時間だ。 とはいえ、別段まだ残っていたとしても、話し掛けられるわけでもないし。 あまり、関係無い気もするけれど。 さっさと帰ろうと歩き始めると、後ろの方から賑やかな声が聞こえてきた。 ちらりと後ろを見ると、テニス部の面々が、話しながら歩いていた。 忍足くん、向日くん、宍戸くん、芥川くん。後は、二年生の樺地くんと、鳳くん、だったかな? 加えて、跡部くんの姿もあった。 (アレだけの人が集まってのと、壮観だなあ…) 気付かれない程度に見ていると、思わず固まった。 (…跡部くんが、笑った……ッ!!!) 否、跡部くんだって人間だ。笑いもするだろう。 ただ、その笑顔というのが問題だった。 普段、見せるような、こう作った様な? 上から目線的な笑みではなく。 自然な? ふっと浮かべてしまったような、そんな表情だった。 まさかあんな跡部くんの姿を目にするコトが出来るとは!! 惜しまれるのは、一瞬のコトで。 嗚呼、カメラでもあれば、収めたたかった。まあ、無理な話しというコトは解っているけれど。 兎も角、今日はなんて良い日なのだろう。スーパーラッキーディだ!!! もう放課後だけど、そんなコトは気にしない。 そして私は、足取り軽くスキップでもしそうな勢いで家路についた。 |
2010.04 加筆修正