『餌付けの名人』










「そういえば前に、『好きなタイプ』について聞かれたコトがあったけど。」

唐突に話しを振られ、その内容にも若干驚きつつ。
意識を手元の本から離し、向かいに座り自分と同じように本を読んでいたであろう人物へと移す。
そうすると彼、国信も同じ様に本から顔を上げていた。
言われた言葉に暫し考え、確かに以前聞いたコトを思い出す。
アレは、三村に好きな人間が出来たと聞いた時だ。
タイミングよく渦中の人物、国信が現れた為、自分が聞いたのだった。
と、記憶を手繰りよせた。

「それがどうかしたのか?」
「あの時『危なっかしくて、目の離せないような人間』って答えたと思うんだけど…。」

そうだな。と、相槌を入れる。

「アレ、ちょっと間違ってたコトに気付いたんだ。」

そう言い、俺の方へと視線を合わせる。

「と、言うと?」

まさか今更、このような話題を持ち出されるとは思いもしなかった為、正直驚いた。
けれど、表情は然して変わらず、国信へ問い返す。

「確かにそれもあると思う。」

俺の問いに、そう呟く。

「でも『どこか身勝手で、不器用なんだけど優しくて気配りできる人間』だと思うんだよ。」
「…。」

なんと返して良いものか。
悩んだが、適当な言葉が出てこない。
結局何も答えず、押し黙ったままでいたが。
元より返事を気にしていなかったのか、そのまま国信は更に続けた。

「で、そうゆうのを、手懐けて世話するのが好きみたいなんだよね。俺。」
「……それは。」

それはまるで、何かを連想させないだろうか?

「『犬』みたいだよね。」

頭の隅で連想したモノをずばり言い切り、尚且つそれを笑顔で断言した。

「構ってあげないとスグ拗ねて、癇癪起こすんだけど、ご主人様の言うコトに対しては物凄い素直なの。」
「…。」

言われた内容に、今現在この場所にいない国信が指し示している『犬』のコトを思い返す。
確かに国信以外の者に対して、若干愛想が悪いし、冷たい所がある。
殊、飯島に対しては特に酷い。否、待て。俺自身にも弊害を齎しているのではないか…?
その仕打ちをふと思い出し、軽く目眩がした。

「杉村も、そういうの好きでしょ?」

そう続けられた言葉に、三村同様この場に居ないもう一人の人間の姿が頭に浮かぶ。
けれど彼、七原の場合は、他の人間にも懐いているし。
早々牙を向ける、他人をお座なりにするようなコトはない。
まあ確かに、目が離せない所もあるけれど。

「懐かれるのって悪い気はしないし、つい甘やかしちゃうんだよね。」

微笑を浮かべつつ、そう口にした国信の姿に。
ぼんやりと七原の様子が目に浮かび、なんとも微笑ましく思え、自分の口元にも僅かに笑みが浮かんだ。

「…でも、泣かせたりなんかしたら、承知しないからね。」

が、そう思ったのも束の間。
先程とは全く違う笑みを浮かべ、低い声で続けられた言葉。
国信は、決して念を押すコトも忘れはしなかった。

それから暫く、俺は固まったまま微動だに出来なかったコトは、言うまでもない。











fin.




2005.02.02
2005.11.6改



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