友人である三村と国信が、お付き合いを始めたらしい。










『同じ穴のムジナ』










三村からそれを聞いたのは、つい先日。
国信のコトが好きだというのを聞いてから、数ヶ月。

三村信史という人物は、そう言った方面、恋愛事に関してはスマートにこなすイメージがあった。
端正な顔立ちと、付き合いやすい性格などから、女子に大変人気があり。
恋人の一人や二人や三人…。否、そんなに居るのも問題ではあるが。
来る者拒まず、去る者追わず。そんな言われがある為、軽い人間に見られる事もしばしば。
よって一部の人間からは、誹謗中傷めいた、受けが悪い所もある。
俺の幼馴染みである彼女、貴子が身近な例だったりする。
けれどその辺は、自業自得なのだろう。まあ三村自身も、然して気にしていない様だが。
しかし今回の件で、意外な一面。本気になった相手に対しては、中々手出しが出来ないらしい。というコトが解った。
まあ、それは対象者が自分と同じ性別、という所為もあったかもしれないが。
兎に角、妙に大人びたイメージのあった友人の子供らしい、中学生らしい一面が見れたのだから。
もしかすると俺は、貴重な体験をしたのかもしれない。

そんな三村の想い人。否、もう恋人と称するべきか?
国信慶時、それが彼の名前。三村とは、正反対なタイプの人間だと思う。
俺が持つ印象というのは、笑顔が絶えず人当たりの良い、決して怒るコトもない穏やかな人間。
且つ真面目で成績も良い方だ。
三村とは違った意味で国信も、大人びた所があり、年相応な感じがしない。
もしかすると、それが二人の共通点かもしれないと。
兎も角、そんな性格なので、誰からも好かれる人間と言えた。

こう言っては、三村に対して悪いが。国信が了承したのが、意外に思えたのも事実かもしれない。
お互い友人付き合いをしていたのだから、嫌っていたコトはないと思うが。
三村同様な感情を、国信の方も持ち合わせていたとは考えられない。
あまり踏み込んだ内容は、プライベートな問題であろうし。
承諾した理由を聞いてみたい衝動に駆られはするが、早々口にするのは憚られる。
どうしたものか。ちらりと目の前で、黙々とシャーペンを動かしている国信へ視線を向ける。

「三村と、付き合うことになったらしいな。」

気が付けば、無意識の内そう言葉を発していた。まさかストレートに、ズバッと問い掛ける様なコトをするとは。
そのコトに己自身、酷く驚いた。どうにも興味が勝ったらしい。

「よく知ってるね、三村に聞いたの?」

しかしそんな俺の言葉に、当の本人は気にした風も無く、事も無げに肯定の言葉を口にした。

「ああ。前に聞いたからな。」
「前? …あー、好きなタイプとか聞いて来た時?」

僅かに笑みを浮かべ、そう続ける。
その返答に、やはりと言うべきか。誤魔化せず、隠し事になっていなかったコトが解った。
これは少々、己にも非があったかもしれないと一瞬思ったが。
結果として良い方向へと進んだのだから構わないか。と思い直す。
そう自己完結した所で、タイミングを見計らったように、国信が口を開いた。

「前から思ってたけど、杉村っていい人だよね。」
「…そうか?」
「そうだよ、自覚ない?」
「ああ、特に自分でそう思ったことは無いが。」
「まあ普通はそういうものかもしれないね。」

脈絡の無い内容に、多少驚く。突然何を言い出すのだろうか…?

「杉村ってさ、秋也と少し似てる所があると思う。」
「七原?」
「何て言うのかな。人を励ましたり、喜ばせたり。そうゆうコトするのが上手いっていうか…。」
「そうか? 別に普通だと思うが?」
「そうだよ。無意識に、素でそういうコト出来るから凄いんだよ。」
「七原はそうかもしれないが…。寧ろ俺なんかよりも、三村や国信の方が凄いと俺は思うぞ?」

そう返した俺に、相変わらず下を向き、シャーペンを走らせながら国信は静に微笑み頷いた。

「俺達のソレは、杉村達のとは違うよ。そういう意味では、俺と三村は似てるのかもしれないけど。」

言って、少し首を傾げた。

「秋也は直感、感情をストレートに表現する人間。少し猪突猛進気味な時もあるけど…。
 俺はそんな風には出来ないから。自分が例えどんな場面に遭っても、何を言われ様と、常に傍観してるから。
 そう接するコトしか、俺は出来ない。」

育った環境にもよるんだろうね。呟くように洩らす。

「七原とは小さい時から一緒に育ったんだろう?」
「うん。けど俺が言ってるのは、慈恵館に来る前のコト。その差だよ。」

余計なコトまで言ったかな、小さく笑い国信は続けた。
国信と七原がいる『慈恵館』という施設は、何らかの事情で親と一緒に暮らすことが出来ない子供達ばかりだという。
事情は様々で、確か七原は両親が事故で亡くなったからだと以前言っていた。では国信は?
聞いたこともなかったし、そのようなことを質問する等さすがに出来ない。
目の前の笑顔を浮かべた国信からは、それ以上追求を許さず、何を思っているのか俺には到底解りはしなかった。

「だからね、秋也や杉村みたいな人間は貴重だと思うよ。」
「言ってる意味が、よく解らないんだが…?」
「ふふ、そのままでいれば良い。ってコトだよ。」

的を得ない国信の言葉。
なんとなく釈然としない物を感じるが、これ以上聞いても無駄だろうと思い、追求するのは止める。

「一つ聞いても良いか?」
「何?」
「了承した理由。」
「理由、ね…。三村と一緒に居るのは、楽なんだよ。さっきも言ったけど、似てる所があるから。」
「だから了承したのか?」

この言葉に、今まで黙々と走らせていた手を止め、浮かべていた微笑が国信から消えた。
そこで始めて、視線が合った。

「杉村ってホントに…。まあ、いいか。違うよ、そんなコトで了承なんかしない。大体俺、一度は断ったんだし。」
「…そう、なのか?」

無言で頷く国信。
初耳だ。言い掛けて止めた続きも気になるが、今はそれ以上に何故、覆すようなことになったのか。

「それに応えるコトは出来ない。迷惑だから俺のコトを、想うのも止めて欲しい。」
「?」
「告白された時、俺が三村に返した言葉。」
「…。」

驚いた。先にも述べたが、国信は人当たりが良く穏やかな人間だ。
だから断るにしても、もっと違う言い回しをすると勝手に思っていた。それがこんなに、はっきりと言い捨てるとは。

「傷つけて、例え元通りの友人関係に戻れなくともそれが正しいと思った。なのに三村はまた、自ら傷付きに来た。」

馬鹿だよね、ぽつりと呟き口元に自嘲的な笑みを浮かべた。

「でも俺は、その想いに応えてた。ほだされた訳じゃ無いけど。何て言うか、三村と俺のソレは違うけど…。」

そうして、視線が落とされた。
告げられた言葉は、特に最後。国信が言うソレ、とは一体何を指しているのか。俺には理解出来なかった。
ただ以前、三村が口にしていた言葉が頭を掠めた。俺達が思っているだけの人間ではない。
真実、その通り俺達が抱き、知っている国信は、ほんの一部にしか過ぎず。普段笑みを絶やさぬ表情(かお)の下で。
深く暗い闇の様な部分を、抱え込んでいるのかもしれないと。目の前に居る国信を見ながら、思った。
国信も三村も。他人(ひと)に負の一面を見せない所が、似ているのかもしれない。
だからこそ、そんな二人にしか理解し合えないモノが在るのだろう。
黙り込んでしまった国信を見つめ、そう解釈した俺の耳にぽつりと呟く様、小さな声が届いた。

「一番の理由は、三村が…。俺と一緒に居るのが、自分に取って倖せを実感出来る。そう言ってくれたから。」
「……そう、か。」

付け加える様、発せられた言葉に。
二人の間に口出しするのも、コレ以上踏み込んでもいけない。そんな気がした。
目の前に居る友人と、今はこの場に居ないもう一人の友人が。
本来在るべき姿を晒し合い、お互いに分かち合える相手でいられる。
そんな存在同士であり続けると良い。俺は只、それだけを強く思った。















fin.




2004.05.07
2005.11.06改


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