『通販生活』










「ネットって、通信販売も出来るんだよね?」

その時俺は、丁度パソコンへ向かっていた。
声を掛けられ、背後へと首だけを動かし振り返ると。エプロン姿の国信が、部屋に入ってくる所だった。
一目姿を確認し、再び俺はパソコンの方へと向き直る。
パソコンに向かっているのは、いつもと変わらぬ日常風景だった。
けれど今日は、ネットに繋ぎオークションサイトを何とも無しに見ていた。
こうした機会は何度かあったが、さして興味が無いらしく。今のように国信が問い掛けてくるコトは、皆無だった。

「ああ。何か買いたい物でもあるのか?」
「うん、ちょっと。」

何気なく問い返せば、肯定の言葉。少し以外、珍しい。物欲と言う物が、殆ど無い国信の欲しがる代物は何なのか。
そんなコトを考えながら、キーボードとマウスを動かし、指定されたサイトを開く。

「…洗剤?」
「そう、コレコレッ!!」

操作して暫く、画面に現われたのは、掃除する時に使う洗剤だった。
映し出された物を見るなり、国信が興奮気味に俺の背後から身を乗り出してきた。

「洗剤の新商品が発売されると、一通り買って使ってみるんだけどさ。その中でも、ココのが断然お勧め!!
 もう軽く一拭きするだけで、ぴかぴかになるんだよコレがッ!!!」
「へえ。」
「な・の・に! 大手メーカの製品じゃないから、あんまり店頭販売してないんだよ!!」

信じられないよねと、俺の肩を遠慮無くばしばし叩きながら、画面を見つめ言い募る。
俺自身、別段洗剤など何でも良いし、何処のを使おうとも構わなかった。
けれど国信は違った。最早ソレは、洗剤フェチと呼べそうな域であり、話しだしたら止まらなくなる。
正直、あんな熱心に洗剤の話しをされても。どれも同じだと思っている俺には、どう返して良いのか解らなかった。
しかし楽し気に話す国信に、水を差す訳にもいかず。結局それを押し黙り聞いたそれ程遠くない、在りし日を思い返す。
その甲斐あってか、今では俺自身も随分洗剤のコトに詳しくなった。と思う。相変わらず、メーカーに拘りは無いが。
そんなコトを思いながら、俺は同意の言葉を口にした。

「…それは、嫌になるな。」
「だろ?! ホントに何軒店を回っても、何処にも無くてさー…。でもこの間、通販してるって知ったんだよ。」

そう言われてみれば、よく目にする洗剤のパッケージだった。
大体家の生活雑貨等、洗剤も含め購入しているのは国信なのだから。成る程と、納得出来た。

「あ、コレ新製品だ。」
「でも、随分大きくないか?」
「だよね…、業務用とかなのかな?」

続けられた言葉に、意識を画面に戻す。表示されている画像、一番上。
一般家庭で使うサイズの容器ではなく、学校等で見掛ける様なサイズの容器にソレは入っていた。

「けど、新しいのは買うんだろ?」
「うーん、そうなんだけど。流石にこんなに大きいのはさ…。」

その言葉に、視線だけを国信へと振り返る。
言いながらも、未練が立ち切れない。諦めきれない様な表情を浮かべていた。
何もそんな、洗剤一つで。と思わなくもないが、先にも述べた通りなので、敢えてそれは口にしない。

「買えば良いんじゃねえの?」
「え?」
「買って、俺ン家とお前ン所とで小分けして使えば。問題ないだろ?」
「…良いの?」
「欲しいんだろ?」
「うん…。」

頷いた国信に、チェックボックスをクリックし購入する為、必要事項を書き込む。
全ての作業を終え、送信ボタンを押した。

「あー、楽しみだな。早く届かないかな。」
「そうだな。」

同意の言葉を口にして、国信を見遣れば嬉しそうに微笑みを浮べていた。
そんな姿に、俺の口元にも自然と笑みが浮んだ。

「…ありがとう。」

そうしてふいに、ちゅっと頬に口付けられる。
温もりを感じたのは、ほんの一瞬の出来事で。スグに唇は離れた。
突然の行動に、面食らう。が、どうせなら口にしてくれれば良いのにと思う。
しかしまあ、滅多にない行動でコトに違いは無いから、素直に喜んでおくコトにした。
だが、洗剤一つでこうも機嫌が良くなると。俺としては、多少複雑な思いにも駆られる。
そんな思いも込めながら、傍から離れて行った国信の背を見つめる。

「あ、そうだ。」

俺の念が通じたのか、ドアの前で国信は一端立ち止まり、くるりと振り返った。

「ご飯出来たから、呼びにきたんだった。冷めない内に、早く下りてきてね。」

にっこり笑いそう告げると、俺の返事も待たずドアを閉め、部屋から出て行った。
それはまるで、周囲に華を撒き散らし、足取りも軽く鼻歌でも聞こえてきそうな様だった。

「…。」

何となく、洗剤に負けたような気がするけれど。
あんなに嬉しそうな表情を見られるならば。コレはコレで、まあいいか。
国信が俺に、笑顔を向けてくれるならそれで。細かいコト等、どうでも良い。
最終的にはそう結論付けられ、パソコンの電源を落とし、国信の後を追うよう部屋を出た。











fin.




甘ッ甘ッ甘ッ!!!

2005.11.29



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