「聞いても良い?」
「何を?」
「…シンジのコト、どう思ってるのか。」
「どう、とは?」
「言葉通り。」

問い掛けられて、顔を上げる。
見れば前の席へと座り、椅子を此方へ向け、机に頬杖を付いている瀬戸の姿。
そうして首が、若干傾げられており、何だか可愛らしい仕草だ。
口にはせず、心の中に押し止め、問われた内容を考える。
言葉通り。随分漠然と、範囲の広い問い掛けだと思う。一体どういうつもりで、そんなコトを聞いてきたのか。
別段、追求するつもりもないのでどうでも良いのだが。とりあえず、言われた通り思案する。
すると、初めて三村と会った日のコトが頭を掠めて行った。










『第一印象』










それは、中学の入学式。至って普通の出会いだった。
周囲には、騒ぎ立ち遠巻きに眺めている女生徒の姿がちらほら。
そんな視線の先。その中心に、友人達と話しをしている三村がいた。
時折、ニッと口元を吊り上げる様な、独特な笑みを浮かべる姿が印象的だった。
けれどふと、回りから視線を外し、何処か作り物染みた笑み浮べた。
自分と似たモノを、彼は持っている。瞬間、そう思った。
俺の目が捉え、離さなかったのは。回りが騒ぎ、目を惹く外見等ではなく、そんな三村の内面だった。

一年の時は、クラスが違い会話をする機会、接点も無かった。
………否、一つだけあるか。
秋也のクラスへ行った時、秋也の隣、話しをしていたのが瀬戸だった。
入学式の日、そう言えば三村の隣に居た様な気がする。
瀬戸に対しての認識は、申し訳無いがその程度しかなかった。
けれど俺の場合、周囲の人間を認識するコトの方が少なく。
三村は、その点で例外な存在だった訳だから、瀬戸のコトをも覚えていた事体、俺にしては珍しいコトと言えたが。
それは兎も角、瀬戸とはその時に会話を交わした。その後、奇しくも委員会が同じになり、共通の友人となったのだ。
こうして生まれた接点。尤もそれは、随分と一方的なモノではあったけれど。
瀬戸との話題には、三村の名前がよく上がった。二人は幼馴染み兼親友、丁度俺と秋也みたいな関係だった。
会話から感じ取れたのは、瀬戸の中で三村が、随分と高く位置付けられているコト。
評価して尊敬し、純粋に心から慕い、絶大な信頼を寄せる自慢の親友。そう胸を張って言い切れる。
あの人物に対して、この親友在り。出来た人間で、お互いに食えない者同士。
けれど、良き理解者・友人を得ている三村は倖せ者だなと思った。
最初、俺の中にあった瀬戸への認識が改訂されたのは、この発言を耳にしてからだった。
だから瀬戸に、ココまで断言させる三村がどの様な人物なのか。
俺自身の目で直接、三村のコトを知りたいと思ったのは、それがきっかけだ。

三村の視界に、俺という存在が映り、会話を交したのは一年の春休みの出来事。
新学期を迎え、それからクラスメイトとなり、俺達は友人同士へとなった。
誰にでも愛想を振り撒き、いい加減でゆるく、調子のいい態度を取る。
それが三村信史、という人間のスタイルだった。
受け取る相手によって、軽薄な人間だと認識されてしまうコトは、本人も自覚済みで。
尚も直す気が無く、それを良しとしている。面白い奴だと思った。
彼流の、円滑に生活を送る術なのだろうけれど。しかしその所為で、三村には敵も多い。
秋也にも言えるコトだったが、煩わしい輩というのは、どうしてこうも無駄に多いのだろう。
まあ、そんな連中はどうでも良いし、興味の欠片も沸かない彼等のコトは割愛する。
話しを戻し、三村になら他にもっと上手く躱(かわ)す方法が。幾らでも三村にならば出来そうなモノを。
けれどそれをしない所も、三村らしさ。三村のスタイルなのかもしれないと納得した。

コレに加えて、目立つ外見と裏腹に、内面は随分と繊細且つ、デリケートに出来ている。
友人付き合いをしていて、俺が感じ得たモノ。
いつも周囲に目を遣り、自然と気を配っている。物事を冷静に捉え、客観的に考え臨機応変に対処出来る。
けれど心の奥底に。普段見せぬ様、立ち振る舞っているが、存外熱い部分を持っている。
本人は気付いていない様だけど、三村はクールとは程遠い人間だと思う。寧ろ親友である瀬戸の方が、よっぽどクールだろう。
世間一般が抱(いだ)いているイメージとは、凡(おおよ)そ逆であろうけれど。
尤も、周囲の意見等、俺にはどうでもいいコトだが。

その後、三村に好きだと告白され、恋人という間柄になった。
こうなってから、特別変化した所は無い。只、優しい人間なのだと改めて思い知らされたコトくらいか。
気付けば随分と俺は、瀬戸の問いに真剣に考えいた。まあこの場合、不真面目に答えるのもどうかと思うが。
兎に角、コレ等を総合して、俺が三村をどう思っているのか。その結論は…。

「世間一般が持ってるイメージと、真逆な人間。」
「……何て言うか、俺が聞きたかったのは、そんなコトじゃなかったのに…。
 それなのに、その一言に全て凝縮されて的を射てる気がするのは何でだろう………。」

俺の返事に対して、納得した様な、そうでない様な。曖昧で微妙な表情を、瀬戸は浮かべた。
三村のコトをどう思っているのか。そんなのは凡そ、瀬戸が思い抱(いだ)いているのと然して変わりはないと俺は思う。
まあ、瀬戸には恋愛感情が付随されていないコトに違いはあるかもしれないが。
しかし本人にも言ったコトの無い内容を、瀬戸に話すつもりはなかった。
尤も、いつか三村に面と向かい、このコトを言う気も俺には無いのだけれど。
相変わらず、釈然としない表情を浮かべたままの瀬戸に。
何も言わず俺は唯、笑みだけを返した。
















fin.




2005.11.19



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