意思表示
19*7 + 微11*15



「意思表示って、重要で大事なモノだよな!」

何の前触れも無く、三村が突然そんな言葉を口にした。
脈絡の感じられない事柄であったが、どうせ碌な物では無いだろう。
これまでの経験から、無意識の内に眉間に皺が寄る。

「有言即実行ってコトで、俺は今日から全面的に意思表示を現して行くコトにする!!」

俺の心情など露ほども知らず、三村は高らかに宣言した。
嗚呼。どうせ俺が口を出した所で、聞いて貰える筈も無いんだ。
言った所で、きれいに却下されるか流されるのがオチではないか。
過去の経験から散々、嫌と言う程身を持って体験していることではないか。
そうだ、今更なんだ…。
今更、ああなった彼を止めるなど、俺に出来はしないのだ……。
諦めと、投げ遣り気味な思いを胸に秘め。ひっそり溜息を吐く。
触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。
兎に角、関わり合いにならないことが賢明だろう。











「…。」

関わり合いにならないからといって、平穏無事に過ごせる程世の中甘くはない。
そう、解っていた筈なのにな…。
禍の方から、己へと近付いてくれば、嫌でも巻き込まれるのも道理ではないか。
時に人間は無力だ。自分の力では、どうにも出来ない。回避するのが不可能なこと。
己が望む望まない関わらず、降り掛かってくる。
それが自分には、他の人よりも少し………。
否、多大な確率で最近は増えたと思うのは恐らく、思い違いでは無いだろう。
今現在の状況も、そう言えるだろう。
目の前には、飯島・国信・瀬戸・七原・三村が居る。
そして俺を入れた、計6人で話しをしている。
一見すると、なんてことない、極ありふれた日常風景と言えるものだろう。
だがしかし。
意思表示をする、と。どうせ碌な事では無いと思っていた(実際その通りだったが)
三村の内容に問題があった。
即ちそれは、国信と自分は付き合っているのだと。
彼は自分の者なのだと、回りに見せ付け。且、牽制するかのような。
話しをする時、隣に居るのは当然で。
肩であったり腰だったり、場所は様々だが手を回し、抱き寄せるような態勢で。
国信の名前を呼んだり、話しをする時は。
何というか、こう…甘ったるいと言うのか。表情も口調も柔らかく。悪く言えば締りの無い物で。
明かに俺達とは、天と地ほどの差があると言える。寧ろ、俺と飯島の扱いがぞんざいに思える。
何だ、俺達は最下層にあるのか…?
まあな、短い付き合いでも無いし。薄々そんな気はしていたがな………。
解っていて尚も何故、俺は彼等と友人付き合いをしてるんだろうか?
時々不思議に思ってしまう瞬間(とき)がある。
…とりあえず、それは今は置いておく。
見ている此方が恥かしくなる。否、目の遣り場に困り、正視出来ない。(それも俺と飯島だけなのだが)
だから一度、国信にどうにかならないのかと申し入れた。
が。無常にも返されたのは

「別に俺は困って無いし、本人の好きにやらせとけば?」

自分のことにも関わらず、他人事のようにサラッとあしらわれる始末。
しかも性質の悪いことに、それだけに留まらず。

「ああいうのって、俺のものだ!!って感じで、なんか良いよなー。」

いつだったか、七原が口にした言葉。
瞬間、周囲から4人分の視線を感じた。
哀れむような視線。刺すような殺気にも似た視線。面白そうに笑う視線。同情を寄せる視線。
そして無邪気に笑う七原。
この時ばかりは、時と場所を考えて。せめて、国信と三村の二人が居ない時に言って欲しかった。
(だからと言って、俺に三村と同じことをしろと言われても出来ないのだが)
しかしそうであれば、更なる悲劇に見回れずに済んだろうに…。
一体いつまで、針の筵の様な心地で過ごせば良いのだろうか。
自分自身の不憫さに、柄にも無く涙が滲みそうになった。









哀れみは三村、殺気は国信、面白そうなのは瀬戸、同情は飯島の視線です。