嘘と真実(まこと)
19*7




「三村。」

小さく名を呼ぶ。
それでも彼は、俺の声に気が付き。
くるりと此方を振り返る。
そうして俺の姿を見止めると、笑みを浮べた。
ゆっくり、近付いてくる様を眺めながら。
微かに俺も、口元に笑みを浮べる。

「どうした?」

目の前に立ち、相変わらずの表情のまま問い掛けてくる。

「うん。あのさ、俺…。」

一端そこで、言葉を区切り。
瞬きを一つして、正面から視線を合わせる。

「信史のコト、大好きだよ。」

滅多に呼ばない、彼の名前を口にして微笑みかける。
瞬間、三村の目はコレでもかというくらい、大きく見開いた。
そうして、何事か口にしようと試みるが。
結局どれも、声にならず。ぱくぱくと口を動かすだけだった。
その姿に満足し、先程とは違う笑みが、俺の顔に浮かぶ。
そして彼が、何事かを言う前に背を向け歩き出す。

「え、なっ、ちょっ、お前ッ。今の…って、あッ?!
 今日は、エイプリルフール…。ってコトは、今の、どういう意味で!
 嘘、嘘なのか?! なあ、オイ! どうなんだ、国信!!」

背後から呆然と、慌てたような声が耳に届く。
同時に、俺を追い駆けてるくる足音も。

そう、確かに今日はエイプリルフール。
嘘を吐いても、由とされる日だ。
だけど、だからと言って嘘を吐くとは限らない。
さて。
心底うろたえている姿が、容易に想像出来る彼に。
追い着いた時、なんと言ってやろうか?