俺がお前でお前が俺で
19*7



目を覚ましたら、目の前に自分の姿があった。

「どうなってるんだろうねえー?」

緊迫感のない声が耳に届く。
有り得ない出来事に、どうしたらこんなに落ち付き払っていられるのか。
思わず溜息が零れ、呟いた人物の方へと目を向ける。
そこに居るのは、俺。の姿をした、中身が国信という何ともややこしい人物が映し出される。
よって今の俺は当然、見た目が国信の姿をしている。
それにしても、自分自身に起きた事体にも関わらず。
あそこまで冷静な態度の国信(の姿をした俺)は、癇に障るというか。
客観的に、相手の立場から自分を見た時。
こうもふてぶてしく見える物なのかと。新たな発見をしたというか。
少し、行動を改めようかなー。なんて思ったりもした。

「でもまあ、今日が休みで良かったよね。」
「…確かに、それは言えてるな。」

本当に今日が休日で良かった。
こんな姿で学校にはー…、否、行けないコトもないかもしれないが。
絶対にボロが出るのがオチだろう。

「けど、何でこんなコトになったんだろう?」
「さあな、俺の方が聞きたい…。」

うーん…と、腕組みをしながら考え込む国信(見た目俺)
なんか、ホントに妙な光景だ。

「…ショック療法、ってあるよね?」
「なんだよ、突然…?」
「それで元に戻るかも…?」
「いや、有り得ないだろ?!」
「まあまあ、物は試しって言うし。」

ニヤリ、そんな表現が似合う笑みを口元に浮べ。
国信(しつこい様だが、見た目は俺)がにじり寄ってくる。

「ダメだダメだッ!そんなコトして傷でも、痕が残ったらどうするんだッ?!」
「別に俺は気にしないし。」
「気にしろッ!?兎に角、ダメだーッ!!!」

後退しながら、己を掻き抱く様、首をぶんぶん横に振り講義の声を上げる。

「あー…、うん。…解ったから、俺の姿でそんなコトされると。凄い微妙だから止めて…。」

微妙に目を逸らし、疲れた様な声を国信(見た目…略)が吐き出した。
どうやら諦め、思い止まってくれたらしいその姿に。
とりあえず言われた通り止め、その場、元居たベッドの上に座った。

「何かさ、きっかけとか解れば、元に戻る方法も解るかもしれないよね。」
「きっかけなぁ…。」

そう言われても、朝起きたら入れ替わっていたわけだし。
コレと言って、何かあったわけではないし。思い当たる節も検討付かない。

「…きっかけ、か。」
「何か、思い当るか?」
「うーん、朝起きたら入れ替わってた。ってコトは、それまでに何かがあった。ってコトだよね?」
「…多分、な。」
「昨日の夜、あったコトと言えば…?」
「…昨日、の、夜………。」

昨晩あったコトと言えば…。

「ま、まさかッ!?」
「試して見る価値、有り。じゃない…?」

言葉と同時に、ベッドの上に押さえ込まれた。

「な、何をする気だ…?」
「解ってるく・せ・に。」

わざと、一々言葉を区切り。掌で胸の辺りを撫で上げられる。

「…ッん?!」

それだけのコトで、無意識に声が漏れ。慌てて口元を手で押さえる。

「ふふふ、今まで散々好き勝手されてきてるんだからね。当然の結果だよね。」
「な、な、なッ…!」
「まあ、自分相手ってのが、妙な感じするけど。」
「ま、待て!」
「何?」
「俺が、下。なのか…?」
「この状況で、何を今更…。」

呆れたように呟かれる。

「まあ別に、俺はどっちでも良いけど。嫌なら逆になる?」

その言葉に暫し考える。
確かに、国信にされるという普段と逆の行為は憚られる。
が、この状況を考えた場合。中身が入れ替わっている、というわけで。
見た目には、普段と変わらないコトになる。
それが逆になる、というコトは即ち俺(の身体)が下になるというコトで…。

「ど、どっちも嫌なんですけど…。」
「却下。ってコトで、このまま続行決定。」

言われて唇を塞がれる。

「…んぁ、やめ…ッ!」
「俺も男だし、逆の立場にもなってみたいと思ってたんだよね。
 自分相手ってのが、ちょっと微妙だけど。この際、贅沢は言ってられないし。」

諦めも肝心だよ、そう締め括り、愛撫が再開される。
このままでは、本当にマズイ。
しかし、動こうにも殆ど抵抗も出来ない現状。
確かにいつも、細いなーとか。力も(俺と比べたら)弱いと思っていたが。
まさかコレ程迄だったとは。
今後は、もっと気を付けるべきだろうか?
頭の隅で思いつつも、状況は本格的な危機にまで陥り。
否、相手は国信なのだから嫌というわけではないのだが。
ないのだが。しかし今、この状況を考えると。
やはりどうしても、拒否反応というか。
見た目が自分なだけに、自分自身にヤられるというのは。鳥肌が立つというか…。
兎に角、絶対に避けたいし嫌だった。
だが、どうするコトも出来ないのも現実。
絶望的な状況に、目には涙が溜まってくる始末。

「い、嫌だーーーーーッ!!!!!」

最後の抵抗とばかりに、絶叫を上げた。





***





叫び声と共に、ガバッと飛び起きる。
辺りを見回すと、そこは自分の部屋だった。
しかし、冷や汗なのか。身体は汗ばみ、心臓もバクバクしている。
そうして、ハッと先程までの出来事を思い出し、慌てて鏡を見る。
と、映し出されたのは国信の姿。
…ではなく、俺自身だった。

「凄い声がしたけど、何かあったの?」

ホッと一息吐いた所で、部屋のドアが開き国信が入ってきた。

「く、国信ッ!!」
「え? な、に ご…と……??」

いつもと変わらぬその姿に、思いきり抱き付く。

「俺は、俺はッ…!
 お前のコト好きだけど、でも、やっぱり逆の立場は避けたい。
 そう思う俺は、まだまだお前に対する愛が足りないのかもしれない。
 けど、お前が不満に思ってても、無理なモノは無理なんだ!!
 こんな俺を許してくれッ!!! てか、変な気は起こさないでくれッ!!!
 今のお前が俺は好きだーッ!!!!!」
「はあ?」

わけが解らない、怪訝そうな表情を浮かべる国信を余所に。
本当に、本ー当ッに夢で良かった。
国信の身体を抱き締めながら、しみじみと感じた、そんな朝だった。