目で追う
19*7



好きな人が出来たら、相手を常に意識してしまうという。
解り易い例の1つとして、相手を目で追いかけるらしい。
とすれば、俺も自分で気付かない内に、そんなコトをしているのだろうか…。
否、それは無い。絶対に、断言しても良い。
大体そんなコトをして、もしも周囲に気付かれでもしたらどうする?
俺は、別に。親とか居ないし、迷惑かけるような相手も居ないから良い。
けど三村には家族も居て、本人だって凄くモテルわけだし。
そんな、俺なんかの所為で迷惑がられるようなコトはしたくない。
こんなコトを言ったら、もしかしたら三村は怒るかもしれないけれど。
その辺はまあ、俺の気持ちの問題と言うか。
それに、そんな、逐一三村のコトを目で追いかけるなんて。
俺だって男なんだから、何て言うか、その、女々しい気がするし。
でも、何より、やっぱりさ。は、恥かしいじゃないか…。
常に視界に相手を捉えているなんて。
って、こんなコトを思う時点で充分女々しい気もするけど。
ま、まあその辺は気付かないフリをしておこう。
兎に角、こう考えてみると、女性というのは凄いなー。なんて感心してしまう。
注意深く周囲を窺えば、教室内には秋也のコトを目で追ってる子とかも結構存在するわけで。
それを隣で友達と、キャッキャ楽しそうに喋っている姿は正直、可愛いと思う。
けど俺に同じようなコトが出来る筈も無い。否、したいとか、する気も更々無いけど。
俺は男だし。そんな姿は、結構痛いだろうし…。
で、長々と言い続けてきて、結局何が言いたいかというと。
少しだけ、ほんの少ーしだけ見習ってみようかな。なんて思ってみたわけだ。
だから俺は今、こうして三村のコトを目で追っている。
実際行動して思ったのは、やはり恥かしいというコトだ。
それに、別に悪いコトをしているわけじゃないから良いのだが。
本人に気付かれでもしたら、どうしよう。
そう思うと、心臓が煩いくらいに早鐘を打つ。
ホント、よくこんな行為を皆、平然と出来ると思う。
俺はもう、これっきり。この1回だけで充分だ。
それだけ解って、再確認したんだから、もう止めようと思った時。

『あ。』

不覚にも、三村と目が合ってしまった。
ヤバイ、と目を逸らそうと思った時。
三村が俺に向って、笑みを浮べた。

『ッ!!!???』

瞬間、俺は思いきり目を逸らした。

『は、は、は、は、恥かしすぎる…ッ!』

自然と目が合ったのならまだしも、相手を意識して、意図的に見ていたのだから。
それは予想以上に大きな衝撃だった。
身体の、特に顔の体温が上昇するのを、嫌が応にも感じた。
心臓は先程にも増して、早鐘を打ち続け、小刻みに震える身体。
今スグこの場から、走り去りたい衝動に駆られる。
なのに、身体は言うコトを聞かず。椅子に座ったまま、ぴくりとも動かない。
そうして、三村が俺の方へ近付いてくる気配を感じた。
こんな状態で、顔を上げられる筈もなく。
いつの間にか涙ぐんで来た瞳に、どうするコトも出来ず途方に暮れながら。
もう2度と、絶対に目で追うなんて行為はするまいと心に固く誓った。