階段を上っていたら、足が滑った。
「友美ちゃん!」
一緒に居た雪子の、焦った様な声が聞こえる。
危ない、落ちる。
そう思っても、どうすることも出来ず。
唯、衝撃に備えてぎゅっと目を瞑った。
でも、衝撃も痛みも、一向に来る気配はなく。
変りに感じたのは、固い床の衝撃ではなく、もう少し柔らかいモノだった。
「大丈夫?」
聞こえた声に、目を開けば、直ぐ傍にクラスメイトである、国信慶時の顔があった。
「え、国信くん…?」
「友美ちゃん!!」
心配気な表情の雪子が、階段から慌てて下りてくる。
そうして、ゆっくりと辺りを見回せば、落ちる筈だった体は、直前で国信くんが受け止めてくれたらしい。
「怪我しなかった?」
至近距離から聞こえた言葉に、黙って頷いた。
そうして現状に我に返り、慌てて国信くんから離れた。
「友美ちゃん、大丈夫?」
「う、うん。平気。」
雪子の問いに、返事をしながら、あたしは少し、別のことを考えていた。
どちらかといえば、あたしの身長は高い方で。
実際、国信くんよりも、ほんの少しだけあたしの方が高い。
それに、国信くんは華奢というか、細身で。
だから驚いた、あんな風に、助けて貰えたことに。
そんなことを考えていたら。
「俺も一応、男だからね。この位のコトは、出来るよ。」
苦笑を浮かべながら、国信くんはそう言った。
考えていたことがバレテ、顔が少し火照るのを感じた。
「危ないから、気をつけてね?」
そう言うと、何事も無かった様に、国信くんは背を向け歩きだした。
国信くんの背中を見詰めながら、助けて貰ったのに、お礼を告げてないことに気が付いた。
「く、国信くん! ありがとうッ!!」
立ち止まり、こちらを振り返ると、吃驚したような表情を浮かべた国信くんは。
「どういたしまして。」
優し気な笑みを浮かべ、一言返すと、今度こそ歩いて行ってしまった。
あたしは、七原くんのことが好きで。
単にそれは、危機感から胸の鼓動が高鳴って、その為に齎された物だったかもしれない。
だけど、確かに。
あたしは、国信くんに、ときめいた。
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