何処の誰とも知らない相手に呼び出され、秋也に手紙を渡して欲しいと頼まれた。
頼み事をするのはまだしも、礼儀としてまず名乗るべきではないかと思う。
それにしても、態々俺を経由せずとも、秋也は受け取るだろうし。
何より、秋也は人伝に渡されるという行為に良い感情を抱いてない。
だから一応、自分で渡した方が良いのではないかと。
口にしたのだが、逆切れされ、頬まで叩かれた。
本当に、常識の欠けた人間だと呆れ果て、溜め息が零れそうになった。
もう一度、幼稚園からやり直してきたら?とか。
一発は一発だと、叩き返そうかとも思ったけれど。
余計に煩わしい事態にり、面倒になるコトは目に見えたし。
こういう輩には、何を言っても無意味なコトだろう。
何より俺がそこまで、この非常識な相手を思いやる義理も無い。
結局彼女は、手紙をその場に落とし、走り去って行ってしまった。
手紙を落として行った、という行為がわざとなのか。
落としたコトさえ忘れていたのか。
彼女の真意は、図りかねるが。そのままにして置く訳にもいかず。
仕方なくソレを拾い、秋也へと渡した。
すると秋也は、微妙そうな表情(かお)を浮かべた。
笑みを浮かべてはいたけれど、何処かぎこちない表情に。
もしかしたら、先程の光景を見られていたのかもしれないと思い。
嗚呼、秋也の気を病ませるコトをしたなと、心の中で舌打ちをした。
前にも確か、似たようなコトがあった。
その時も含めて、例え回りからどう思われようが、なじられようとも。
正直どうでも良かったし、興味の欠片も沸かなかった。
回りなど、他人など、どうだって良いのだ。
こんなコトで、秋也が気にする必要など何もないのだ。
けれど俺が原因で、秋也の気を病ませてしまうのは、不本意でしかない。
だから、あのような顔をさせてしまうくらいなら。
今後は手紙を受け取ったとしても、ビリビリに破り捨てるとか。
差し入れの類も、ゴミ箱へ突っ込むべきなのだろうかと思い悩む。
唯、秋也が嫌な思いを、傷付くようなコトさえなければ。
外野など、俺には取るに足らない存在なのだ。
*
けれど、例外的に一つだけ。
三村信史の存在は、俺の中で唯一。
秋也以外に、心を占める割合の大きな人間だった。
そんな三村も、あの光景を目撃していたらしく。
露骨に、忌々しそうな表情を隠そうともせず浮かべ。
「あの非常識な女は誰だ?」
教室へ戻る前に現われ、問い掛けられた。
叩かれた頬を、そっと撫でてきた三村の姿に、笑みが浮かんだ。
それから、彼女のコトなど気にしていないからと口にし。
頬を撫でる手に、己のソレを重ねる。
多少の熱を持った頬に、三村の掌はひんやりとして心地良かった。
そうして俺は、こうやって一々と、感情を表立て現す三村に。
どうしようもなく、満足感を覚えるのだ。
三村の目には、俺しか映っていないと。
頭の中は、俺のコトで埋め尽くされているのだと思うとたまらない。
もっと、もっともっと。俺以外の人間など眼中に入らないくらいになれば良い。
俺なしでは、生きて行けないと思えるくらいに。
こんな風に、独占されるという行為は―――。
なんて、気持ちが良いのだろう。
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