些細な重大事項3
国信篇



何処の誰とも知らない相手に呼び出され、秋也に手紙を渡して欲しいと頼まれた。
頼み事をするのはまだしも、礼儀としてまず名乗るべきではないかと思う。
それにしても、態々俺を経由せずとも、秋也は受け取るだろうし。
何より、秋也は人伝に渡されるという行為に良い感情を抱いてない。
だから一応、自分で渡した方が良いのではないかと。
口にしたのだが、逆切れされ、頬まで叩かれた。
本当に、常識の欠けた人間だと呆れ果て、溜め息が零れそうになった。
もう一度、幼稚園からやり直してきたら?とか。
一発は一発だと、叩き返そうかとも思ったけれど。
余計に煩わしい事態にり、面倒になるコトは目に見えたし。
こういう輩には、何を言っても無意味なコトだろう。
何より俺がそこまで、この非常識な相手を思いやる義理も無い。
結局彼女は、手紙をその場に落とし、走り去って行ってしまった。
手紙を落として行った、という行為がわざとなのか。
落としたコトさえ忘れていたのか。
彼女の真意は、図りかねるが。そのままにして置く訳にもいかず。
仕方なくソレを拾い、秋也へと渡した。
すると秋也は、微妙そうな表情(かお)を浮かべた。
笑みを浮かべてはいたけれど、何処かぎこちない表情に。
もしかしたら、先程の光景を見られていたのかもしれないと思い。
嗚呼、秋也の気を病ませるコトをしたなと、心の中で舌打ちをした。
前にも確か、似たようなコトがあった。
その時も含めて、例え回りからどう思われようが、なじられようとも。
正直どうでも良かったし、興味の欠片も沸かなかった。
回りなど、他人など、どうだって良いのだ。
こんなコトで、秋也が気にする必要など何もないのだ。
けれど俺が原因で、秋也の気を病ませてしまうのは、不本意でしかない。
だから、あのような顔をさせてしまうくらいなら。
今後は手紙を受け取ったとしても、ビリビリに破り捨てるとか。
差し入れの類も、ゴミ箱へ突っ込むべきなのだろうかと思い悩む。
唯、秋也が嫌な思いを、傷付くようなコトさえなければ。
外野など、俺には取るに足らない存在なのだ。











けれど、例外的に一つだけ。
三村信史の存在は、俺の中で唯一。
秋也以外に、心を占める割合の大きな人間だった。
そんな三村も、あの光景を目撃していたらしく。
露骨に、忌々しそうな表情を隠そうともせず浮かべ。
「あの非常識な女は誰だ?」
教室へ戻る前に現われ、問い掛けられた。
叩かれた頬を、そっと撫でてきた三村の姿に、笑みが浮かんだ。
それから、彼女のコトなど気にしていないからと口にし。
頬を撫でる手に、己のソレを重ねる。
多少の熱を持った頬に、三村の掌はひんやりとして心地良かった。
そうして俺は、こうやって一々と、感情を表立て現す三村に。
どうしようもなく、満足感を覚えるのだ。
三村の目には、俺しか映っていないと。
頭の中は、俺のコトで埋め尽くされているのだと思うとたまらない。
もっと、もっともっと。俺以外の人間など眼中に入らないくらいになれば良い。
俺なしでは、生きて行けないと思えるくらいに。
こんな風に、独占されるという行為は―――。





なんて、気持ちが良いのだろう。