些細な重大事項2
三村篇



昼食後、教室内に国信の姿が見当たらず。
何処へ行ったのだろうかと、教室を出て周囲に目を向けながら廊下を歩く。
すると窓の外、渡り廊下付近に探し人の姿があった。
しかしそこには、もう1つ、女生徒の姿もあり。
何となく嫌な予感が過り、眉間に皺が寄った。
こういう時に感じるモノは、大抵現実となるコトが殆どで。
今回も、そんな思いを胸に見ていれば。
そいつが国信の頬を叩いた。

嗚呼、やっぱりか。
ソレを目にした瞬間、そんな思いと共に湧き起こるのは。
怒りのような、殺気にも似た感情だった。
女の顔は見えなかったから、何処の誰だか解らないが。
お前は他人(ひと)を殴れる程、上の立場に居るのか。そんなに偉いのかと。
贔屓目無しにしても、国信に非があるとは到底思えないし。
何やかんや言いつつも、国信は平和主義者だ。
平和主義、というよりは。
波風を立てず、物事を穏便に。事を荒げて、余計な面倒事を起こしたくないだけとも言えるが。
けれど仮に、もし国信側に非があったとしても。
俺は、相手の味方にはなれないとも思う。











その光景を目撃した後、急ぎ足で国信の元へと向った。
恐らく真っ直ぐに、教室へ戻って来るコトはないだろう。
冷やすなりして、何の痕跡も残さぬ状態にしてから戻る筈だ。
七原に、気付かせない為に。
そうしてやっと捕まえた国信に、先程起きた事の顛末を問えば。
あの女生徒は、七原に手紙を渡して欲しいと頼んできたらしく。
自分に頼まなくとも、受け取ってくれるだろうから。自分で手渡した方が良い。
相手に告げると、その位してくれても良いじゃないかと逆切れし。手まで挙げたというコトだった。
ふざけるな、冗談じゃない。
そんな下らない理由で、叩いたりするなんて。
相手が女であろうと、許せなかった。忌々しいと思った。同じコトをしてやろうか?という思考まで及んだ。
叩かれた左頬へ手を伸ばし、そっと触れれば。頬は僅かに熱を持っており。
普段が冷たいだけに、痛々しさを余計に感じさせた。
俺の行為に国信は、目を細め、微笑みを浮かべた。
そうして気にしていないと、叩かれたコト等どうでも良いと口にした。
だから、そんな表情(かお)をするなと。
本人に言われてしまえば、それ以上俺には何も言えないし、出来はしない。
その後、何事も無かった様に、国信は七原へと手紙を渡した。

けれど、手紙の受け取り人である七原も。
あの光景を目にしていたらしく、酷くショックを受けていた。
自分の所為で、結果として、国信が被害を蒙る事態になるコトが嫌だと。
そうさせてしまう自分自身が、憎らしいと洩らした。

七原の呟きを耳にして。
こうして不意打ちに、俺は思い知らされる。
国信は七原を思い行動し、七原もまた国信を思い行動している。
結果は裏目に出ているけれど。俺にとって、結果等どうでも良い。
過程にこそ意味がある。
お互いを思い合う、二人の仲に。どう足掻こうとも、俺には立ち入れない領域なのだと。
七原に対する国信の思いを、頭では解っている。
恋愛のソレとは、俺に対するモノとは違う、幼馴染みで親友で、家族愛のようなモノなのだと。
だけど、解っていても納得出来ない、悔しい。
国信が感情を、思いの全てを向ける相手は、俺1人だけで良いと。
そう思い、嫉妬している自身の存在を、感じずにはいられない。
こうして何処へとも出せない胸の痞えが、ちりちりと積み重なるんだ。