『王様遊戯』









「『第1回、チキチキお約束な王様ゲームで親睦を深めちゃおう!』大会を開催するわよ❤」

高らかに、笑顔の月岡がそう宣言した。

「はあ? 何だよ突然。」
「つーか、何でコイツ等と一緒に、ゲームなんかしなきゃなんねーんだよ。」

続いて、沼井が言葉を紡ぎ、笹川が眉を顰め周囲を指差した。
現在室内に居るのは、桐山ファミリーである、月岡・沼井・笹川・黒長、そしてボス事、桐山の五人。
加えて、飯島・国信・杉村・瀬戸・三村・七原の6人の合計11人だ。

「だから、親睦を深める為、って言ったでしょう。」

聞いてなかったの?と、月岡が小首を傾げる。

「くだらねー、やってられるかよ。」

文句を口にした笹川は、直ぐにでも教室から出て行きそうな雰囲気だ。

「あらー、楽しそうで良いじゃない。それに…。」

その様子に、驚いた風もなく月岡が笑顔で応じる。
いつものコトなのか、他のメンバーは静観していた。

「桐山くんは乗り気よね?」

そう言い、振り返った先の桐山は、相変わらずの無表情で、何を考えているのか判断し難い。

「え?」

月岡の言葉に、一番に反応したのは自称右腕の沼井だった。
無言・無表情の桐山をジッと見つめると。

「ぼ、ボスが参加するなら、俺は別にやっても良い…。」

自称するだけのコトはあるのか、はたまた愛の力なのか。
桐山が参加すると、読み取ったらしく、ぼそりと零した。
ボスである桐山の参加が解り、笹川も押し黙った。
その様子に、国信は微笑み、言葉を続けた。

「罰ゲームもあるからね。」
「ギブした回数が、1番多いヤツには。」
「コレを食べて貰うよ。」

それを引き継ぎ、三村と瀬戸が続く。
同時に、何処からともなく、緑色の物体を目の前に差し出した。

「な、何だソレ?!」
「つーか、有り得ねえ…。」
「…臭いが…。」

沼井・笹川・黒長の三人は、顔を引き攣らせた。
色だけみれば、抹茶ケーキ…。
しかしながら、如何せん臭いだけは、どうにもならない。

「青汁と青汁で作ったケーキ。」

三人の様子を尻目に、笑顔で答える瀬戸。

「ちなみに、罰ゲームを考えたのは桐山だよ。」

次いで、国信が続いた。

「「「ボスーッ!!!」」」

三人一斉に声を揃え、桐山の方を振り向く。
呼ばれた本人は、相変わらず涼しい顔をしている。

「…青汁は身体に良いと―。」
「じゃなくて!」

淡々とした物言いに、沼井が突っ込んだ。

「ふざけんなッ、やってられるか。俺は参加しないからなッ!」

そうして、やはり真っ先に文句を口にしたのは笹川だった。
その様子に、国信・瀬戸・三村の目がキラリと光る。

「ふーん、逃げるんだ?」
「負けるのが怖いんだな。」
「それじゃあ、仕方無いよね。」
「負け犬なんて、格好悪いもんね。」
「敵前逃亡ってのも、ダサイよなぁ。」
「案外、笹川って小心者なんだね。」

反論する暇も与えず、矢継ぎ早に、練習でもしていたのではないかと思うくらい、ピッタリの掛け合い。

「はあ?! 誰が負け犬だ、逃げるわけねーだろうがッ!!」

散々な物言いに、青筋を浮かべながら笹川が怒鳴る。

「なら、参加するよね?」
「当たり前だッ!!」

力強く笹川は、即答した。
すると、国信・三村・瀬戸の三人は、してやったり、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
一連の遣り取りに、あの三人に絡むから、アッサリ乗せられるんだ。
飯島と杉村の二人は、ツッコミを入れた。
勿論、心の中で。
気の毒に、と思いつつも決して声には出さなかった。
何より、とばっちりを受けるのは、御免だった。
こうして円満?に全員の参加が(強制的に)決まり、十一人による王様ゲームが幕を開けた。










***










「それじゃあ、早速始めるわよ~。」

月岡の言葉に、全員が割り箸で作られた籤に手を伸ばす。

「「「「「王様、誰~だッ!」」」」」

一斉に籤を引き、確認する。栄えある最初の王様は。

「俺だ!」

その声に、全員の視線が集まる。
嬉々と笑顔で手を挙げたのは、瀬戸だった。
自分が王様でなかった事に、ガックリと肩を落とす者、一体どんな命令をされるのかと、緊張を浮かべる者。
ゴクリと静寂が響く中、瀬戸の口が開く。

「それじゃあねぇ…、1番と8番が校庭で『キュ●ミント萌えー』って叫んでくる!」
「ざけんなーッ?!」

命令内容に、叫んだのは笹川であった。
その手には、1と記された割り箸が握られていた。
もう一人のターゲットである8を引いた者は、どうやら杉村の様だった。
杉村は、笹川とは違い無表情・無言で座っていた。
どうやらコチラの方は、諦めの局地であるらしい。
その横で、文句を口にする笹川。

「ギブ?」

ギャーギャーと煩い笹川に、国信と三村が、青汁を手に笑みを浮かべ迫る。

「うぐッ…。」

それを見せられ、笹川は黙り込んだ。

「…くそッ、やれば良いんだろうーッ?!」

自棄気味に叫び、教室の扉を乱暴に開け、笹川は外に走って行った。
その後を、無言の杉村が追い掛ける。その背中は、哀愁が漂っている風であった。
二人が教室を出てから、数分後。
行きと同様、騒々しい足音と共に笹川が扉を開けた。
唯、その姿には、清々しいと言える笑みが浮かんでいた。

「お帰り~。」

出迎えた面々に、満面の笑みを浮かべながら笹川は言った。

「おう! 俺もうオープニングも、完璧に歌えるぜ!!」

自棄になったのか、壊れたのか。
もしかすると笹川は、隠れオタクだったのかもしれない。
そんな親友の姿に、黒長はそっと涙を拭った。
笹川とは逆に、杉村の方は変わり無かった。
が、『何も聞くな。』と無言で語っている様な、遠い目をしていた。
全員が揃った所で、ゲームが再開された。そして次の王様は、三村。

「俺か。そうだな…、6と9のヤツ。とりあえずコレに着替えろ。」

そうして何やら、紙袋を取り出した。

「6って俺だ。9番は?」

七原が首を傾げ、見回す。

「…俺だ。」

七原の問いに答えたのは、桐山だった。
スッと立ち上がり、三村から紙袋を受け取り、二人は着替える為、外に出て行った。



「ただいまー。」

暫くして、戻った七原はセーラー服を着ていた。

「何か、脚元がスースーする。」

そうして、スカートをピラピラと揺すった。
七原の女装姿は、微妙にゴツイ感じがしていた。
が。続いて姿を現した桐山は、着こなしている風でもあった。

「…ボス。」

桐山の姿に、やはり最初に反応したのは沼井だった。

「どうかな、充。萌え、か…?」

ズイッと沼井に近付き、桐山は尋ねた。

「えッ、あ…、その……あの…。」

視線を彷徨わせながら、言葉を濁す沼井。
けれどその表情には、薄らと赤味が差していた。
その様子に、周囲から生温い視線が送られた。
が、当事者である二人は、全く気付く事はなかった。

それから暫く、若干の中断はあったが、ゲームはまだまだ続く。
三番目に王様になったのは、七原だ。

「じゃあ、5番と7番がコレを食べる!」

笑顔の七原が、取り出した物は。

「…な、何だコレ……?」

炭の様な、黒い塊。
一見しただけでは、それが食べ物だとは到底思えない物だった。
だがしかし。

「見ての通り。」
「卵焼きじゃない。」
「解らないのか?」

七原に変わり答えたのは、瀬戸・国信・三村のトリオだった。
ちなみに、飯島と杉村にも、ソレが何かは解った。
慣れとは、恐ろしい物である。

「「解るかーッ!!!」」

息の合った笹川と沼井の叫び。

「ちょっと失敗しちゃってさ。」
二人の叫びも、あっさりスルーして、照れ笑いを浮かべながら七原は答えた。

「ちょっと!?」
「コレがッ?!」

再び衝撃を受ける二人。
ツッコミ気質なのか、一々大袈裟にリアクションをしてくれる二人は、新鮮であり。
同時に大変だな、と。飯島と杉村は思った。

「どうでも良いから、早く食べろよ。」
「そうそう。」
「いっきいっき!」

これまた二人のツッコミを無視し、三村が急かし、国信が頷き、瀬戸が囃し立てる。

「うぅぅぅ、何だってこんな目に。」
「でも、青汁に比べたらまだ…。」
「そ、そうだよな。焦げすぎただけだと思えば。」

笹川と沼井は、お互いの顔を見合わせ、頷くと黒い塊。基、卵焼きを口にした。

「「ほぎゃーッ!!!」」

叫び声を上げ、二人は倒れた。

「あーあ、ほら、コレでも飲んで落ち着きなよ。」

優しく二人に、笑顔を浮かべながら瀬戸はコップを差し出した。
「飲めるかーッ!!」

差し出されたコップに入っていたのは、言わずもがな青汁。
さすがに騙される事なく、先に復活した笹川が全力で拒んだ。

「…甘くて辛く、苦いのに酸っぱいような。あんな訳の解らないの初めてだ…。」

ポツリと呟く沼井の表情は、何処となく青褪めていた。
そんな沼井と笹川の姿に、俺じゃなくて本当に良かったと、心の底から思う黒長だった。

こんなハプニングぐらいでは、ゲームが中断される事は無く。当然のように次が始まる。

「あらー、アタシの番ねぇ。」

そして王様を引いたのは、月岡。
どうしようかしら、と周囲の面々を見遣り、ニコリと笑みを浮かべた。

「4番と10番がー…。」

その言葉に、沼井と飯島の二人がピクリと反応する。

「王様に、キ・ス❤」
「「ッ~~~~~!!!」」

月岡の命令に、二人は声にならない悲鳴を上げた。

「あら~、充ちゃんと飯島くんなのねぇ。安心して、頬っぺで良いから❤」

唇はねえ…、と三村の方に視線を向け、月岡はウインクをした。
その様子に、三村は光速で国信の背中へと逃げ隠れた。

「ほ、頬なだけ、マシだよな…。」
「そう、だよね…。」

そんな遣り取りがされている中、渦中の二人は顔を引き攣らせながらも、意を決していた。
さっさと済まさんとばかりに、頬に掠める様なキスをし、素早く唇を離した。

「あらあらー、二人とも照れちゃってえ。もうッ、可愛いんだからぁ~❤」

お返しよ、と月岡が二人の頬にチュッとキスをする。
月岡の行為に、二人は泣き出した。

「そんなに、泣くほど嬉しかったの?」

泣き顔の二人を、月岡は抱き締める。
その腕から、必死に離れようともがく沼井と飯島。
その様子を微笑ましく眺める諸悪の根源でもある瀬戸・国信・三村のトリオ。
気の毒に、そう思いつつも止める気もなく(出来ない)視線を逸らす杉村。

「…お前も色々、大変なんだな。」

同情を浮かべる黒長。

「…まあな。」

答える杉村には、覇気がなかった。そんな杉村の様子に、黒長は何処か自分と似た境遇を思い。
二人の間には、この瞬間、友情が生まれた。










***










月岡の手から、何とか逃れた沼井と飯島の二人は、微かに震えていた。
が、それでも白熱したゲームはまだまだ続く。
そんな中、王様になったのは飯島であった。

「じゃ、じゃあ…、4番が9番を罵る。」

飯島の命令内容は、至ってシンプルである。
が、罵るなどという命令を出すなんて、鬱憤が溜まっているのだろうかと杉村は心配した。
愚痴なら、いつでも聞くからなと、心の中で飯島に話し掛けた。

「って、また俺かよ!? 何か俺の確立高くないかぁ? で、4って誰だ?」

余程運が無いのか、陰謀なのか。
笹川は愚痴を零しながらも、今までの物よりは簡単である命令に、周囲を見回した。

「俺。」

そうして手を挙げたのは、国信だった。

「国信かー。」

相手が国信と解ると、コレは楽勝だぜと余裕の表情を笹川は浮かべた。

「上手く罵れるかな?」

不安そうに、控え目な笑みを浮かべる国信。
勿論、その笑みは演技なのだが。果たしてソレに気付く人間は、どのくらい存在するのか。

「大丈夫だって!」
「ノブさん、頑張れ!」

解っていながら、悪ノリする三村と瀬戸。
何も解っていない七原。
興味の無さそうな桐山。ニコニコと笑みを浮かべているが、イマイチ掴めない月岡。
何も知らずに、可哀想にな。
思わず憐みの目を向ける飯島と杉村。
でもやはり、声には出さない。

「じゃあ、いくよ?」

そうして、笑みを浮かべていた口元を引き締めると、スッと目を細めた。

「跪け、崇め讃えろ、この屑がッ!」
「ッ?!」

嘲笑を浮かべた国信の言葉に、部屋の気温がいっきに下がった。ような気がした。
普段の温和な表情を浮かべた国信しか知らない笹川を始め、黒長と沼井は、国信の言葉に固まった。
自分に向けられた言葉でもないのに、この衝撃。
当たったのが自分達でなくて、本当に良かったと。飯島・杉村・黒長・沼井の心が一つになった。
大口を叩いていても、根は小心者な笹川。
恐らく彼は、今後国信に対して、畏怖の念を抱き続けるのではないだろうか。
だがしかし、そんな事は知った事ではない。
ゲームは佳境に差し掛かった。そしてやっと、巡りに廻って王様になったのは。

「ヨッシャーッ、遂に俺の番になったぜ!!!」

先程までとは一転し、笹川はガッツポーズをし喜んだ。

「王様ゲームと言えば定番だろう! 2と5の奴がキスする、勿論口にだッ!!!」

嬉しそうに高らかに、命令を口にする笹川。そして運良く?選ばれた者は―――。

「俺だ。」

静かに言葉を発したのは、桐山だった。
その様子に、沼井の眉がピクリと動く。

「…ボス、か…。もう一人は…?」

思い掛けない結果に、若干の動揺が笹川に浮かぶ。
緊張した面持ちで、周囲に目を向け、返事をしたのは。

「俺。」

手を挙げたのは、国信だった。それに、今度は三村が僅かな反応を示した。
そうして立ち上がると、メンバーはゴクリと固唾を飲んで、二人の動向を見守った。
緊張が漂う中、 先に動いたのは、桐山の方だった。

「…いくぞ。」

短く言葉を発すると、国信の肩を掴み唇を重ねた。
その様子を、三村は忌々しげに、沼井は唇を噛みしめ、二人から視線を外し。
それ以外のメンバーは、興味深げに見つめた。
そうして、一分が過ぎ、二分三分…。
随分と長い時間が経過した。

「長いわーッ!!!!!」

いつまで続くのだろうか? そう思われる行為と沈黙を破ったのは、三村だった。
叫び声と共に、強引に二人を引き離す。
唇の離れた二人からは、銀糸が引いた。

「つーか、舌まで入れンなッ!!!!!」

青筋を浮かべながら、三村は桐山へ怒鳴った。
その声に、沼井の身体がビクリと動く。
唇を噛みしめ、俯き加減な身体は、小刻みに震えていた。
瞬間

「……ボスのバカーッ!!!」

顔を上げ大声で叫ぶと、ワーッと泣き出した。
その姿に、桐山は何がいけないんだ? と不思議そうに首を傾げ、笹川を見た。
命令を出し、無言で問いかけられた笹川は、口元を引き攣らせ俺に聞くなよと、視線を泳がせた。
一方、そんな三人を余所に、三村に引き離され、そのまま抱き締められたままの国信へ、瀬戸が言葉を投げ掛けた。

「ノブさん、どうだった?」
「…凄かった、かな?」
「国信ッ!!」

当然のように、その言葉に三村が反応し、徐に唇を重ねた。
予想の範疇だったのか、お約束な展開に、瀬戸は「おー…」と声を上げただけだった。

「コレじゃあ、さすがに続けるのは無理そうだね。」

何事も無かったように、言葉を紡いだ。

「確かになー。」
「そうねぇ、でも中々楽しかったわよね❤」

七原と月岡が同意した。

「…この中で、淡々と進められるお前等、スゲーよ…。」

黒長がポツリと呟いた。

「…まあ、な。」
「……慣れてる、から…。」

飯島と杉村が、力無く引き攣った笑みを浮かべながら答えた。
そうして、それぞれの(自称)常識人、及び苦労人な三人は、お互いの事を思い遣り、妙な親近感から親睦が深まった。

「でもさ、折角作ったのに、コレどうする?」
「そうねえ、勿体ないわよね…。」

罰ゲームの為に用意した、ケーキ等を眺め、瀬戸・七原・月岡の三人が首を傾げる。

「あ、良いコト思いついた!」
「何々?」
「一番指名された回数が多かった、笹川に贈呈!」
「あら~、それは良いわね❤」
「そうだな!」
「ッて、オイ、何で俺がッ??!!」

三人の提案に、物凄い勢いで反論する笹川。
当然である、何と言ってもあの緑の物体を、ギブもしていないのに一人で食べなくてはいけないと、理不尽な決定を下されたのだから。

「親睦を深める為に、食べさせてあげるから~❤」
「大人しくなさい、竜平ちゃん。」

フォーク片手に、瀬戸がにじり寄る。
そして月岡が逃げないよう笹川を押さえ込み、七原がケーキの乗せられた皿を差し出す。

「ふっふっふっふ。」
「観念なさいッ!」
「はい、あーん❤」
「※◆☆○#×*%$?!」

至極楽しそうな笑みを浮かべた、瀬戸・七原・月岡、声にならない絶叫を上げる笹川。
その横で、何がどうしたのか三村と国信同様にキスをしている桐山と沼井。
そんな光景を、止めるコトもせず(出来ない)見つめる飯島・杉村・黒長。
こうして、第一回チキチキお約束な王様ゲームで親睦を深めちゃおう!大会は静かに幕を下ろした。











―  強制終了  ―










2008.07.16. 再録

プチオンリーで無料配布していたコピ話しを再録アップ。
当サイトでは、不憫担当笹川を推奨してます(オイ!