貴方は温かくて、とても優しい人。
傍に居ると、暖かい気持ちにさせてくれる。
それはまるで、春の陽だまりの様。
全てを包み込み、許容し、容認してくれる、広く深い心の持ち主。
何ら見返りを求めるコトもせず、無償で手を差し伸べてくれる。
私の存在を、全てを受け入れてくれた他人(ひと)。
そんな貴方に、見合うだけのモノが、価値が私には在るのか。
優しくされる度、心に圧し掛かり去来する想い。
酷く不安で、酷く弱気にさせ、酷く悩ませるのです。










『盲目の蝶は愛をかく語りき』










何気なく、自然と差し伸べられる手は。
俺が拒絶しないコトを、確信しているかのようで。
まるでその手を取らないコトが、重罪のように思わされる。
けれど、同時に。
ならばもし。もしも、俺がその手を取らなければ。
一体どのような反応を、三村は返すのか。
そんな思考が、頭を過って行く。





そう思った時には、既に行動していた。





立ち止まり、無言のまま、動こうとしない俺を不審に思ったのか。
三村が気付き、振り返る。
そして絡まる視線。



振り返った表情(かお)は、不思議そうなモノで。
けれどそれも、一瞬のコトでしかなくて。
スグに、微笑みへと変化した。
そうして先程まで、数歩前を歩いていた三村は。
俺の目前まで近付くと、立ち止まり。



「ほら、早く行こうぜ。」



微笑みは、そのままに、一言。
次いで俺の手を取り、歩みを促すように前へと引っ張られる。





やや斜め前を歩く、三村の姿を見つめながら。
こうして毎回、思い知る。
とても嬉しいと感じている、自分の存在に。
繋がれた掌から伝わる温もりは。
諦めて、何も感じなくなっていた心を。
騒ぎ起たせる。
波風のように、ざわざわと。
静に、波紋が広がり。
揺れる。
胸が、締め付けられる。
何気ない態度が、言動の一つ一つが。
頑なだった、心の琴線に触れ、響く。





人間(ひと)は。
嬉しい時にも、自然と涙が溢れ出るというコトを教えてくれた。
願って、焦がれて、欲しても無駄だと、諦めていたモノを。
諦めるなと。
無意味だと思っていた、自分の存在価値を認めてくれた。
何もかもを、鍵を掛け封印した、あの日から。
本当は、ずっと渇望していた。気付かぬ振りをしていたモノ達。
それら全て、与えてくれたと言っても過言ではない程に。
様々なモノが、流れ込んで、身体を浸透して行く様な感覚。
人間(ひと)が生きて行く為に、必要なモノ全て。
呼び起こしてくれた。



一度でも、こんな想いを味わってしまえば。
もう二度と、元には戻れない。
ただひたすらに、貪欲に欲するだけ。
欲張りになって行く自分を、抑えられない。
そんな醜い自分が許せない。
けれど、相反するように、次第に依存して行くような錯覚に陥る。
否、錯覚などではなく。
既にもう、俺は三村に依存しているのかもしれない。
恐らく、再び突き放されて、切り捨てられたのならば。
心がバラバラに。
砕けて、壊れてしまうに違いない。

だけど、それでも。
それでも良いと、それでも構わないと。
いつか、今後訪れるであろう未来。
その時に、俺では倖せに出来ないのなら。
キレイ、サッパリと、置き捨ててくれて良いから。
そんな日が、いつか来たならば。
笑って送り出すから。
優しく、温かいこの手を離すから。

だから、せめて。
せめて今だけは。
向けられる優しさが、差し伸べられる手が。
誰の為でもなく、俺の為だけのモノだと思いたい。
温かく、甘やかな、居心地の良いこの場所に、浸っていたい。





伝える言葉を、手段を持ち得ない俺は。
倖せだと感じて、慶ぶこの想いが。
俺が感じている以上の倖せが、訪れるようにと。
心の底から、願っているのだと。
ほんの僅かでしかないかもしれない。
それでも、伝わる様に、届く様にと。
祈りにも似た想いを込めながら、繋がれた掌を握り返す。





明日も再び、今日と同じ平穏で、笑顔絶えぬ日が送れるコトを。

















fin.





05.01.15


最果てより