夢が、正夢になった瞬間。
頭が真っ白になり、何が起きたのか解らなかった。
本当にソレは、数秒の出来事で。
次第に床が紅に染まり、血の臭いが室内を覆う。
火を吹いた銃口からは、一筋の白煙が昇る。

人は皆、いつか死ぬなんてコトは当然だし。
誰にでも起こり得るのは解っていた事実なのに。
只、あまりにもソレが突然すぎて。今日訪れるなんて思いもしなくて。
俺は、お前の名前を叫ぶコトしか出来なかった。










『失墜の夜、反逆者は生まれた』










覚醒すると、うっすら目元に涙が溜まっていた。
そうして、嗚呼、夢だったんだ。
ぼんやりしていた頭が、現実へと引き戻される。
同時に、失望に似た喪失感に襲われる。
一体今までに、どのくらい同じコトを繰り返したのだろう?
それでも尚、この感覚にだけは、慣れるコトが決して無い。

悪夢の様な現実。
あの日から、どれくらい月日が流れたんだろう。
毎日が楽しくて、皆と騒いだり。たまには、くだらないコトで喧嘩もした。
そんな、変わらぬ日々が、いつまでも続くと思っていた頃。
今日と同じ明日が来る。
何の根拠も無いのに、漠然と思っていた。
けれど、平凡で普通な倖せの日々は唐突に終焉を迎えた。

中学三年の修学旅行で、たくさんのモノを失った。
どれも皆、掛け替えの無い、大切なモノ達だった。





















過ぎ去りし、懐かしくも、遠い日々の記憶。
もう二度と戻れ無い、帰るコトの出来ない場所。
今でも尚、鮮明に蘇る光景。
思い出しても、胸が締め付けられ、痛むだけなのに。
決して忘れるコトの出来ない。
否、絶対に、忘れてはいけない出来事。

今、俺自身のしている行為が正しいのか、間違いなのか。
そんなのは、俺にも解らない。
だけどあの日。
俺達を殺し合わせた大人達は、憎むべき対象で、許すコトは出来ない。
それだけは、確かに言える。

あの時、失った衝撃、ショック、哀しみは計り知れないモノだった。
目の前で、お前を殺した奴ら全員。
この手で、同じ目に遭わせてやりたいと思ったくらいに。
憎む心が確かに、そこには在った。
それなのに。なのに、今はどうだろう。
当時と比べたら、憎む、哀しむ気持ちが薄らいできた様な気がする。
そんな事実が、現実が哀しい。
喪失感は、今も変わらずこの胸にあるのに。
感情は、気持ちは時が経つに連れ、次第に薄れ行くモノだというコトを否応無しに、思い知らされる。
人間が生きて行く為には、記憶を次第に忘れ去るモノだというけれど。
忘れたいわけじゃない。
わすれたくない、わすれたくない、わすれたくないんだ。
だけど、俺の思いとは裏腹に失われて行く。
それらを必死に、失わない様にしたくとも。
繋ぎ止めておく術を、俺は知らない。解らないんだ。

両親が事故で死んだ時も、コレ以上哀しいコトは無い。
そう、思っていたのに。
気付いた時、哀しみも癒され、笑顔を取り戻し。日常生活というモノを、送れる様になっていた。
でもあの時は、お前が。慶時が俺の傍に居てくれたからだ。
それなのに、どうして慶時。お前は今、俺の隣に居ないんだろう。
一番失いたくなくて、倖せになって欲しいと思っていた存在なのに…。





人間(ひと)は死んだら、生きている者の中でしか生きられない。
そう俺に、教えてくれたのも慶時だった。
だから俺は、慶時。
お前のコトを、絶対に忘れはしない。
慶時だけじゃない。
あの日逝った友人達、クラスメイト全員。
俺が忘れなければ、いつまでも心の中で皆、生き続けている。

俺はまだ、立ち止まるコトは出来ない。
振り返るコトも、しない。
俺の中に居る慶時は、今も変わらず笑ってくれている。
俺が大好きだった、あの微笑みで。
だから俺は、大丈夫。
まだ、前だけ見て、何も考えず、振り返らずに進んで行ける。










でも慶時。どうしようもなく俺は、お前に会いたいよ。
お前に、俺の名前を呼んで欲しいよ。そうしてあの笑顔を、俺に向けて欲しいんだ。
もう二度と、叶わぬコトを知りつつも。俺は、願わずにはいられないんだ。

















fin.





05.04.08


(最果てより)