夢が、正夢になった瞬間。 頭が真っ白になり、何が起きたのか解らなかった。 本当にソレは、数秒の出来事で。 次第に床が紅に染まり、血の臭いが室内を覆う。 火を吹いた銃口からは、一筋の白煙が昇る。 人は皆、いつか死ぬなんてコトは当然だし。 誰にでも起こり得るのは解っていた事実なのに。 只、あまりにもソレが突然すぎて。今日訪れるなんて思いもしなくて。 俺は、お前の名前を叫ぶコトしか出来なかった。 『失墜の夜、反逆者は生まれた』 覚醒すると、うっすら目元に涙が溜まっていた。 そうして、嗚呼、夢だったんだ。 ぼんやりしていた頭が、現実へと引き戻される。 同時に、失望に似た喪失感に襲われる。 一体今までに、どのくらい同じコトを繰り返したのだろう? それでも尚、この感覚にだけは、慣れるコトが決して無い。 悪夢の様な現実。 あの日から、どれくらい月日が流れたんだろう。 毎日が楽しくて、皆と騒いだり。たまには、くだらないコトで喧嘩もした。 そんな、変わらぬ日々が、いつまでも続くと思っていた頃。 今日と同じ明日が来る。 何の根拠も無いのに、漠然と思っていた。 けれど、平凡で普通な倖せの日々は唐突に終焉を迎えた。 中学三年の修学旅行で、たくさんのモノを失った。 どれも皆、掛け替えの無い、大切なモノ達だった。 * 過ぎ去りし、懐かしくも、遠い日々の記憶。 もう二度と戻れ無い、帰るコトの出来ない場所。 今でも尚、鮮明に蘇る光景。 思い出しても、胸が締め付けられ、痛むだけなのに。 決して忘れるコトの出来ない。 否、絶対に、忘れてはいけない出来事。 今、俺自身のしている行為が正しいのか、間違いなのか。 そんなのは、俺にも解らない。 だけどあの日。 俺達を殺し合わせた大人達は、憎むべき対象で、許すコトは出来ない。 それだけは、確かに言える。 あの時、失った衝撃、ショック、哀しみは計り知れないモノだった。 目の前で、お前を殺した奴ら全員。 この手で、同じ目に遭わせてやりたいと思ったくらいに。 憎む心が確かに、そこには在った。 それなのに。なのに、今はどうだろう。 当時と比べたら、憎む、哀しむ気持ちが薄らいできた様な気がする。 そんな事実が、現実が哀しい。 喪失感は、今も変わらずこの胸にあるのに。 感情は、気持ちは時が経つに連れ、次第に薄れ行くモノだというコトを否応無しに、思い知らされる。 人間が生きて行く為には、記憶を次第に忘れ去るモノだというけれど。 忘れたいわけじゃない。 わすれたくない、わすれたくない、わすれたくないんだ。 だけど、俺の思いとは裏腹に失われて行く。 それらを必死に、失わない様にしたくとも。 繋ぎ止めておく術を、俺は知らない。解らないんだ。 両親が事故で死んだ時も、コレ以上哀しいコトは無い。 そう、思っていたのに。 気付いた時、哀しみも癒され、笑顔を取り戻し。日常生活というモノを、送れる様になっていた。 でもあの時は、お前が。慶時が俺の傍に居てくれたからだ。 それなのに、どうして慶時。お前は今、俺の隣に居ないんだろう。 一番失いたくなくて、倖せになって欲しいと思っていた存在なのに…。 人間(ひと)は死んだら、生きている者の中でしか生きられない。 そう俺に、教えてくれたのも慶時だった。 だから俺は、慶時。 お前のコトを、絶対に忘れはしない。 慶時だけじゃない。 あの日逝った友人達、クラスメイト全員。 俺が忘れなければ、いつまでも心の中で皆、生き続けている。 俺はまだ、立ち止まるコトは出来ない。 振り返るコトも、しない。 俺の中に居る慶時は、今も変わらず笑ってくれている。 俺が大好きだった、あの微笑みで。 だから俺は、大丈夫。 まだ、前だけ見て、何も考えず、振り返らずに進んで行ける。 でも慶時。どうしようもなく俺は、お前に会いたいよ。 お前に、俺の名前を呼んで欲しいよ。そうしてあの笑顔を、俺に向けて欲しいんだ。 もう二度と、叶わぬコトを知りつつも。俺は、願わずにはいられないんだ。 fin.
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(最果てより)