見上げた空は、気持ちとは裏腹に、煌々とした月が輝く。
雨が降ればいい。そうして、何もかも全て流してくれれば良いのに…。










『寂しい葬儀』










意識を失い、次に目を覚ました時、ソレは既に始まっていた。
淡々と、静に知らされる自分達の行く末。
即ち、死ぬまでの期日。
どうするコトも出来ない現実。変えるコトの出来ない未来。
知らされた瞬間、特に感じるモノは無かった。
冷静に、ソレを受け止めていたのか。
或は、何も考えられないほどだったのか。
実際の所は、解らない。

けれど、目の前でクラスメイトが殺されて。
溢れ出す鮮血。
床に広がる紅い水溜り。
そうして室内に漂う、血の臭い。
否応無しに、受け入れざるを得ない状況になって。
そうして始めて、嗚呼コレは紛れも無い現実での出来事なんだな。
あんなに簡単に、人は死ぬんだなって。
頭で解っていても、実感して、理解出来たのは、この瞬間(とき)になってからだったような気がする。

死、なんてのは、いつか必ず、誰にでも起き得るモノなのに。
哀しむ間も、脳が感情を伝達する前に、次はお前が死んだ。
何も出来ずに、只、呆然と見つめるコトしか出来なかった。黙って、見つめるしか出来ないコトが。
こんなにも。こんなにも虚しく、痛く辛い哀しいモノなんだって。
思い知らされた。

だけどそんな俺に、お前は微笑(えみ)を向けた。
ふっと動かされた視線が重なった瞬間。
確かに、微笑(わら)った。

でも。
崩れ落ちていく姿を見つめるコトしか出来なくて。
本当は駆けよって、この手に抱き止めたかった。
引き寄せて、抱き締めて。
その温もりを感じて、もう一度、キスしたかった。











次第に減っていく室内で。
静に、床に横たわる、動かないお前の姿を見つめながら。
ずっと、あの微笑みの意味を考えていた。
だけどきっと、真意の程は解らない。
もう、確認するコトすら出来ないから、推測でしかない。
いくら考えても、考えても考えても導き出されない答え。
でも俺は、答えが欲しいわけじゃない。
応えが欲しかった。
そうして己の名前を呼ばれ、投げ付けるようにカバンを渡され。
薄暗い教室を出る時、俺には只、見送るコトしか出来なかった。
本当は、あの冷たい場所から連れ出してやりたかった。
そんなコトは、到底叶わぬコトだと解っていたけれど。





出て来たばかりの建物を振り返り、見上げる。
頭を過るのは、数時間前の光景。
実感が無いから、湧かないから哀しいとは思わない。
だから、涙も出てこなかった。
在るのは只、どうしようもない喪失感。
弔いの花など、ココに在りはしない。
立ち止まるコトも、哀しみに打ち拉がれるコトも許されない。
引き返すコトも出来ない今、無理だと、無謀だと思われても進むしかない。
無惨に殺されて逝った、クラスメイトの為。
否。
お前の為に―――。





大きな弔いの華を、俺自身の手で咲かせてやろう。
心に誓い、真っ暗な道へと一歩を踏み出した。

















fin.





05.03.17


最果てより