クラスメイトが、目の前で殺された。
クラスメイトが、同じクラスメイトを殺した。
そして今も、放送で伝えられるクラスメイト達の死。
数時間前まで、数日前まで。
一緒に勉強したり、笑い合っていたのに。
そんな彼等が、次々と死んで逝く…。










『禍あれ、と鴉は謳う』










『なんで俺達が、こんな目に遭わなきゃいけないんだろう。』とか。
『どうして友達同士で、殺しあえるんだろう。』とか。
『こんなに簡単に、人間(ひと)は死んでしまうんだな。』とか。
『もう、楽しかった頃には戻れないんだな。』とか。
『絶望するっていうのは、こんな感じなのかな。』とか。

鬱蒼とした木々の中を、一人歩きながら思うのはそんなコト。
いろんな想いが、いっきに溢れて、混在して。
こんな理不尽な法律があるコトは知っていたけど。
俺達の身近な出来事では無くて、遠い所での出来事だったから。
可哀想だな、とか。
そんな風に思いはしたけれど、次第に薄れて行く記憶。
無意識に、忘れようと、考えないようにしようとしていただけなのかもしれない。
そう、結局は他人事でしかなかったから。
だから今まで、深く考えたコトは無かったような気がする。
何でこんな法律が、この国には平然と施行されてるんだろう。
そのコトを善しとしている世の中が。異を唱える人間が存在しない。
ソレが、この国の現状であり、現実。
自分自身が、こうゆう状況下に置かれ始めて。
今まで漠然としていたモノ達の、実感を得たような気がする。
俺と同じように皆、他人事だから何も言わないのかもしれない。
身勝手で、我侭な考えなのかもしれないけれど。
例えるならば。
信じていたモノが、ガラガラと音を立てて崩れていく様な。
全てのモノに、裏切られたような感覚。
何が善で、悪と定義付けるのかが揺らぎ、解らなくなった。
大好きだった、この世界が。
とても憎らしモノへと一変した。











恐らく、もう二度と家に帰れはしない。
父さんや、母さんに。二度と会うコトも出来ない。
そう思う。
自分自身が優勝なんか、出来る筈も無いし。
もし仮に、例え、無事に生きてココから脱出したとしても。
この法令のルールは
『最後の一人になるまで、殺しあえ。』だから。
きっと、複数が生還。この場合、逃亡になるんだろうか?
兎に角、そう出来た場合、俺達に待っている現実は。
犯罪者として指名手配されるであろう未来。
結局、碌な未来は、俺達に用意されてはいないのだ。
この法令の、対象に選ばれてしまった瞬間から。
もう、未来は変えるコトが出来ない。
そうゆうのを、『運命』って称するのだろうか。
だけど、そんな一言で、簡単に片付けてなんか欲しくない。
生命(いのち)は誰にでも平等に、生きる権利が誰にでもあるのだと信じたいから。
でも、信じていたとしても、どうにもならないコトがあるんだなって。
こんな時に実感して、思い知らされるのは、なんて皮肉な話しなんだろう。
だって、俺達には。
俺にはもう、何をするコトも叶わないじゃないか。
精々、この現状で俺達に、俺に出来るコトは何だろう。

この国が、世界が変わってくれるのを祈るコト?
何より、この国に生まれて、育ったのだから、変化してくれるのを信じたいとは思う。
争いなんて、下らないモノが無くなって。平和に、皆が笑って暮らせる日が、いつか来るコトを。

でも。でも、それと同時に。
相反する負の感情も湧き起こる。少しは思ってしまう。
俺達の未来を奪う、奪い合わせるような法令を作り上げた人達に。
それに従い、携わる人達に。
俺達と同じ様な、それ以上の目に遭えば良いと。
そんな風に思ってしまう俺は、まだまだ子供の所為だからなのか。
だけど。
人間(ひと)の生命(いのち)を、ゲームの様に。奪い合わせるコトを、何とも思わない人達なのだから。

今まで信用していた人間(ひと)達に、銃口を突き付けられ。
信じていたモノに裏切られ、掌を返されて。
そうしてやっと、自分達が今までしてきたコトの愚かさに、過ちに気付けば良い。
後悔と、絶望に見回れながら、最期の瞬間(とき)を迎えれば良い。
そう願ってしまう心が在る。
でも、それくらい考えてしまっても、許されると思う。罰は当らないと思う。
そのくらいの報いを受けたって、当然なんじゃないかって…。





カミサマなんて、存在しないコトを否応無しに、思い知った日。
楽しかった思い出として、過去の話しになる筈だった修学旅行が。
今まで生きてきた中で、最低最悪なモノへと変わった日。
俺達の、俺の生命(いのち)のタイムリミットは、後どれくらいだろうか。
後ろ向きな思考は、不吉だし不謹慎極まりないけれど。
だけど俺は、懐かしく暖かいあの場所へはもう帰れないだろうから。
俺が死んだ後も、大好きな人達が、友人が、家族が、両親が。
笑顔を、浮かべるコトが出来る日が来るのを。
存在し得ないカミサマに、願った。





そんな俺の遥か上空で鴉が啼く。鳴り止まぬ、鎮魂歌の様に。
まるで、憐れなモノ達を、憚り、嗤っているかの様に―――。















fin.





05.02.05


(最果てより)